高専ロボコンデータベースをつくっていくブログ

高専ロボコン第30回大会を終えてこれからも面白いロボコンであってもらいたいということで最近の高専ロボコンに感動した自分が満足できそうなデータベース構築のために情報を蓄積していくためのブログです。

都立産業技術高専荒川キャンパスA 荒鯊(アラハゼ)

試合内容

関東甲信越大会

 先に開催された他地区では多くの接戦や逆転がみられ、最後に開催された関東甲信越大会にもそのような試合が多くなるとの期待が持たれたに違いない。*1

初戦の1回戦第4試合

 東京高専Bチームの「゜ゑ(ピェ)」と対戦。この関東甲信越地区大会に参加していた20台のロボットの中で、試合でVゴールを成し遂げた3台のうちの1台であり、荒鯊とは全く異なる輪を一つずつ射出する戦術であるが、自動機能が実装されており、荒川が最初の射出で失敗すれば、油断ならない相手であったかもしれない。しかし、見ているものにそんな心配をさせる暇もなく、開始12秒でVゴール勝利した。判定、スコア表示、実況も追いついていなかった。この回の全地区大会・全国大会あわせても最速のVゴール勝利であった。ひょっとしたら、高専ロボコンの歴史上では短時間で決着がついた試合の中で3番目ぐらいに速かったかもしれない。

 因みに、高専ロボコン史上における最短試合時間試合は、1994年第7回九州沖縄地区大会の久留米高専「ウィントホーゼ*2」と有明高専Sniper(スナイパー)」との対戦であり、久留米が開始3秒でVホールを決めている。*3

2回戦第8試合

 群馬高専Bチームの「上州カウボーイ(ジョウシュウカウボーイ)」と対戦。一斉射出型の弱点を自覚させられた試合だったかもしれない。開始11秒で輪を放ったが、自陣ポール2本しか入らず、直ぐに輪の装填へスタートゾーンへ戻らねばならなかった。その間に群馬の上州カウボーイに同点、そして逆転の2対3(1分19秒)とされた。1分39秒過ぎ、荒川はようやくスローゾーンに戻り、まずは1分47秒に自陣ポール3本目を入れて同点とし、そして直ぐに一斉射出し、Vゴールで勝利した(1分54秒)。

準々決勝第4試合

 同じ一斉射出の戦術でしかも連射が可能な長岡高専Bチームの「Nagaoka-Fireworks(ナガオカファイヤーワークス)」と対戦した。2回戦までに、今回の地区大会と全国大会を合わせても、最速12秒の記録ホルダーのロボットとそれに次ぐ21秒のVゴールを記録したロボットの対決であった。輪を飛ばすエネルギー源として、荒川は空気圧を利用するのに対し、長岡はゴムの弾性を利用していた。どちらが速くて正確なのか、雌雄を決する事実上の決勝戦のような対決であった。

 開始11秒、荒川は自陣ポール3本を決めるが、長岡は自陣を外したので、もう一度自陣3本へ発射。荒川は慌てずに自陣ポールを1本ずつ指差し確認してから中央と相手陣のポール6本へ放ち、19秒でVゴール勝ち(9対3)。もし仮に長岡の最初の自陣ポール3本が入っていたとしても、相手陣中を外していたので、そこでも長岡は負けていた。

 この試合、他の地区の同型・同戦術のチームには、ある種のかなりな圧力を与え、強烈な印象を植え付けたに違いない。ミスを犯さず、相手のベストタイムよりも速く、確認も加えたオペレーションを遂行した荒鯊のメンバーには賛辞を送りたい。

準決勝第2試合

 長野高専Bチームの「infinity(インフィニティ)」と対戦。荒川は序盤の自陣ポールを2本しか決められず(開始14秒)、スタートゾーンへ戻って輪の装填へ。荒川は、自陣ポール射出後に3本に輪が入っているかを確認してから射出するようにしたのが功を奏したのか、中央・相手陣ポールへの輪は残されたままであったため、自陣ポールの手動装填だけで済み、40秒にはスローゾーンへ復帰できた。

 復帰直前に長野に3対2と逆転されていたが、荒川は自陣ポール3本に輪を入れて3対3の同点とした(49秒)。荒川の状況をみてからだったのだろうか、長野は二本の大きな輪をハンマー投げのように回し、長野側のポールを狙う荒川の輪の侵入を防ごうと装置を回し始めた。荒川は長野の装置の回転が速まって輪が防ぎやすくなるまえに輪を放ち、見事Vゴールで勝利した(56秒)。序盤の指差し確認やタイミングが悪ければ、長引いていたことだろう。

決勝戦

 荒川は、この前までの試合で、17点、14点、そして地区大会・全国大会合わせても最高得点となった22点と、大量得点をしてきた長野高専Aチームの「C-RAZair(シーレーザー)」と決勝戦で対戦することとなった。これまでの対戦相手とは全く異なり、ポールの防衛をしながらの大量得点能力、大きな割に機敏な動き、まるで戦国時代の真田一族*4さながらの戦術に荒川は翻弄された。*5

 序盤、荒川はミスもなく自陣ポール3本を決めた一方で、長野は自陣ポール中の前の留まり、荒川が投げてくるのを待ちながら1得点。荒川は1対3とリードした(13秒)。長野がスタートゾーン最寄の自陣ポール前に移動し、守りの体勢をとっているところに、荒川は、長野が守っているポール以外のポールに全てに輪を入れて1対8と大量リードし、なおかつVゴールへ至る有利な状況を開始30秒で作りだした。長野の得点ペースを研究済みであったのであろうか、直ぐに輪の装填をしにスタートゾーンへ戻っていった。長野はその隙にすかさず自陣ポール全てに輪を入れようとするが、3本目を外してしまい。長野もスタートゾーンへ装填しに戻った。

 55秒過ぎ、2対8、荒川Vゴールまであと1本という状況で両者スタートゾーンへ飛び出した。しかし、荒川は慢心していたのか、ここから長野の術中に嵌っていった。1分10秒過ぎ、長野が一旦自陣ポール中の前に移動し始めたとき、荒川はVゴールか加点を狙って相手陣ポールに向けて3本の輪を放つが、どれも入らず、また装填しにスタートゾーンへ。長野に陽動されて輪を投げてしまった格好になってしまっていた。*6長野は荒川が装填中に自陣ポール3本目を決めた(1分23秒)。

 試合の折り返しの1分30秒過ぎ、荒川は加点よりもVゴールすることを選択し大きな輪を装填してスローゾーンへ戻った。荒川は、荒川の輪が入っていない相手陣ポール右の最短位置に移動し、狙いを定めていたところ、長野が荒川に長野の大きな輪を投げつけ、荒川の大きな輪の射出準備を乱し、荒川の大きな輪が射出装置から外れてしまった。両者、輪の装填のために、スタートゾーンへ戻った。このとき、荒川はよもや輪が投げつけられるとは思っていなかったのではないか。*7

 乱された大きい輪を正しく装填しなおし、2分7秒過ぎに先に荒川が飛び出した。荒川はVゴールのための最短の位置に再度つけようとするが、先ほど投げつけられた長野の輪がちょうど荒川を邪魔するような位置に残っており、射出位置の調整に手間取っていると長野もスローゾーンに戻ってきていて、暫く守る長野と睨み合いのようになってしまっていた。

 試合時間の終了が迫ってくる中、意を決して同点か逆転をするために中央ポールの複数本掛けに動いた長野をみて荒川は輪を放ったが入らず、一方長野が放った輪は試合時間終了の3分丁度に中央ポール二本掛けが成功して8対8になり、同点とされてしまった。

 ルール上、通常は審査員判定で勝敗を決するはずであったが、審査委員長が再試合と判定した。荒川にとっては計算外だったか。

決勝戦再試合

 審査委員長に再試合の判断をさせるほどの同点劇を演出した格好の勢いのある長野に対し、荒川は気後れして選択を誤ったのかもしれないが、Vゴールを狙い続けるという一本気に見えてしまう性格は嫌いにはなれない。

 序盤、長野が先に得点し始めるが、直ぐに荒川は一斉に輪を入れ始め、開始16秒で2対8と逆転し、輪の装填にスタートゾーンへ戻った。ここまでは、前の試合と同様であったが、長野が23秒に自陣ポール3本目を決め、そして42秒に中央ポール3本掛けを成功させて13対8と状況が一変した。

 1分過ぎに荒川が戻ると、長野がまたポールの前で防御に戻っていた。大きい輪を装填してきた荒川はVゴール狙いを選択し、長野が守るポールへ向けて輪を放ったが長野に防がれて入らず、また装填に。このとき、中央ポール10点を狙う選択もあっただろう。荒川が装填している間に長野が得点を増やしていく、14対8、15対8、16対8。

 荒川はまた大きな輪を装填し、先ほど全く同じに長野が守る相手陣ポールの中央に輪を放つが、長野に防がれ、またもや装填しにいくことになった。先ほどの大きい輪で5点、この輪で5点加算できていれば、16対18と逆転していただろう。

 長野がさらに得点して17対8としたのが、1分55秒。荒川は三度目の正直の正直を信じ、今度は小さな輪を三つ積んで、2分10秒過ぎにスローゾーンに再び戻った。長野が相手陣ポールにあと2本でVゴールに迫っていたためにVゴールを警戒して輪が入っていなかった自陣ポールの前で守りながら、慎重に射出位置を定め、試合終了間際に3本の輪を相手陣目掛けて放った。3本投げた輪のうち2本は入ったが、長野が守るポールへ入れられず、17対10で負けてしまった。

全国大会

1回戦第7試合

 初戦は、精度がよく連射が可能な徳山高専の「捲土重来(ケンドチョウライ)」と対戦した。荒川は自陣ポール3本を失敗することなく同時に輪をいれることに成功し、中央ポールと相手陣ポールに一斉射出。相手陣の中と左を残して開始15秒で0対7の大幅リードを築いた。

 輪の装填に1分ほど時間をかけ、6対7と徳山に詰め寄られるが、そこは計算済み。1分20秒あたりでスローゾーンに戻ると、最初に小さい3つの輪を放った。3本とも入らなかったため、今度は大きな輪で確実に相手陣ポールの中に輪をいれ、6対8と徳山を突き放した。徳山が相手陣ポールへの輪を入れるのに手間取っているのを見て、スタートゾーンへ。今度は大きな輪一本だけ短時間で装填し、スローゾーンへ戻ってくると、荒川は相手陣ポール左に大きなを入れてVゴールで勝利した。

2回戦第3試合

 次は同型ロボットの一関高専百式砲(ヒャクシキホウ)」との対戦であった。関東甲信越大会で対戦した長岡の「Nagaoka-Fireworks(ナガオカファイヤーワークス)」はゴムを利用していたが、一関の「百式砲」は圧縮空気を利用しているだけでなく、射出装置の配置や輪の折り方まで同様であり、負けられない試合であったのではなかろうか。

 序盤の自陣ポールで荒川は2本しか決められず、直ぐに装填しに戻ることに。その隙に一関が3対2と逆転(開始10秒)。そのまま一関にVゴールを決められてしまうところであったが、中央2.5m左右の二本を決めて5対2どまり。一関も装填に戻ることに。

 輪の装填中も互いの考えていることを探りあっていたようだ。一関は大きい輪を取り出しつつ、荒川の様子を確認していた。

 42秒過ぎ、荒川はスローゾーンへ戻って自陣ポール3本目へ向けて輪を放つが外してしまった。またもや装填に。

 1分12秒過ぎ、一関が装填を終えてスローゾーンへ出て行くと、大きな輪を装填していた荒川も慌ててスローゾーンへ飛び出していった。そして両者、ほぼ一斉に輪を放っていった。荒川はなんとか3本目の自陣ポールに輪をいれることができ、中央ポール3本へも輪が入った。一方、一関も相手陣ポール右に決めたので、7対6(1分29秒)と依然リードされたままで試合時間を折り返した。そしてまた両者輪の装填のためにスタートゾーンへ戻っていく。

 先に出たのは荒川で、大きい輪を装填していた。荒川は、相手陣ポール左に大きい輪を入れ、7対7の同点に追いつけた。試合は振り出しに戻ったのであった。そして荒川は再び装填に。

 2分過ぎ、一関が先にスローゾーンに出た。直ぐに荒川が追いかけた。一関が相手陣ポール全てに輪を放つも一つも入らず。直後に荒川は確実に得点で上回ろうと一つの大きな輪を相手陣右を狙って放つも入らず。またまた両者装填に。一つの大きな輪の装填だけで済ませた荒川が再度放つもまた入らず、7対7の同点で試合終了。勝敗は審査委員判定で決まることになった。

 三人の審査員は皆荒川側の青の札を揚げて0対5で荒川がトーナメントを進むことになった。同点に追いついたこと、装填が速かったことが評価されたのだろうか?しかし、なぜ、大きな輪で5点以上を狙わなかったのか。

準々決勝第3試合

 全国大会では全てVゴール勝利をしてきた荒川にとってはダークホース的な扱いだったに違いない四国地区大会では1回戦敗退だった香川高専高松キャンパスの「Beehive(ビーハイブ)」と対戦した。高速という意味で、一斉射出型のスピードスター(Speedster)が荒川の荒鯊であれば、高松のBeehiveは連射型のそれであり*8、決して油断のならない相手であったが、荒川はあまり気にしていなかったようだ。下記のDevice Plusの全国大会試合前の取材によると、他のチームを見ての感想に高松高専が含まれて居なかった。*9

deviceplus.jp

 開始直後、荒川は自陣ポール3本、中央ポール3本には輪が入ったが、相手陣ポールには一つも入らず、これまでのように装填のために直ぐにスタートゾーンへ戻った。装填の間、高松に輪を1本ずつポールに小気味良く入られていき、荒川がスローゾーンへ戻った時ちょうどに追いつかれて6対6の同点になってしまっていた(33秒)。ここで荒川がVゴール逆転できる機会でもあったが、何故か大きな輪を一つ装填していただけだった。その輪を放ったが入らず、荒川がまた装填に戻っている間に、それもたった19秒間で、高松に相手陣ポール3本に輪を入れられてVゴールされてしまい、関東甲信越大会で魅せたように、最初の射出で全てのポールに輪をいれることを全国大会では披露できずに、荒川は大会を終えた。

戦術で気になること

 地区大会の長野高専のC-RAZairや全国大会の高松高専のBeehiveと対戦で、初発でのVゴールが出来なかった後、大きな輪を装填したにも関わらず、何故中央ポールの複数本掛けをしようとなかったのか?『高専ロボコン2015 出場ロボット解剖計画』に触れられているように、シリンダー先端部品の換装など、構造上の問題があったのか、それとも単に思いつかなかっただけなのか?中央ポールで複数本掛けを成功させていたら、どちらも勝てる可能性は十分にあったのではないか?

都立産業技術高専荒川キャンパスA 荒鯊(アラハゼ) 画像URL

関東甲信越地区大会 出場校データチェック ページより

上記サイトの都合で画像が閲覧できないことがあります。

特徴

  • 移動システム:四輪メカナムホイール
  • 射出エネルギー源と格納方法1:圧縮空気(ペットボトル)
  • 射出装置1:エアシリンダ押出カタパルト(押出型)(自陣)x3
  • 射出装置2:エアシリンダ押出カタパルト(押出型)(中央)x3
  • 射出装置3:エアシリンダ押出カタパルト(押出型)(相手)x3
  • 照準/測位システム:なし(目視、レーザーポインターを目視補助に利用)
  • 通信システム:Bluetooth(mbed LPC1768利用?)
  • コントローラー:ゲームパッドPS3
  • 操縦者:1名
  • 自律機能/自動機能:未確認
  • 妨害装置:あり(地区大会:白い板、全国大会:ワイヤー)

 分からないなりに書こうと思っていたら、高専ロボコンを強烈に推しているDevicePlusさんが『高専ロボコン2015 出場ロボット解剖計画』に荒鯊に関する詳細な情報を掲載しているので(PP.20-26)、そちらを参照するとよいでしょう(下記リンク先)。*10

 最短Vゴール記録は練習で7秒、試合で12秒。全国優勝した奈良高専の「大和(ヤマト)」でさえ、練習で9秒、試合で21秒だったのだから、その性能は誇るべきでしょう。*11

lp.deviceplus.jp

SUN UP ボール式エアーコック R1/4xR1/4

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*1:根拠はないですが、私はそう思っています。

*2:本来はドイツ語表記

*3:最短終了試合ベスト10はないんだろうか?

*4:ちょうど大河ドラマで『真田丸』がやってますね。

*5:荒川キャンパスの皆さんはそうは思っていないと思いますが、私にはそうみえました。

*6:待つ作戦は考えなかったのだろうか?

*7:長野の方は中央ポールの複数本掛けをやめてこの作戦に切り替えたことから、試合前から考えていたと推測しています。

*8:本当は、連射型でいえば、九州地区大会で熊本八代の挑戦車が記録した51秒、全国大会2回戦で和歌山の梅王がだした同じく51秒が最速であるが、高松もこの試合までに54秒、そしてこの試合で52秒でVゴールしており、誤差の範囲で、ほぼ同じ性能で扱ってもよいと思っています。

*9:下記の画像、肖像権的にどうなんだろ。そもそもこの画像の使い方は大丈夫なのかな?

*10:毎年、出場した全ロボットについて書かれている資料集があれば良かったと思います。そういうのなんでしてこなかったんでしょうね。

*11:スピードスターという扱いでは第17回大会「マーズラッシュ」全国大会の豊田高専の「vELo-city(ベロシティー)」に似てなくもない。