高専ロボコンデータベースをつくっていくブログ

高専ロボコン第30回大会を終えてこれからも面白いロボコンであってもらいたいということで最近の高専ロボコンに感動した自分が満足できそうなデータベース構築のために情報を蓄積していくためのブログです。

旭川高専A Orthrows(オルトロス)

試合内容

地区大会

 前日のロボットの軽量で、最大25kgまでの重量制限から1kgも上回っていたことが判明した旭川高専Aチームの「Orthrows(オルトロス)」は、二門ある射出装置それぞれに取り付けられた装填装置のうちの一つを取り外し、実質一門の射出装置で地区大会の試合に臨むことになった。

1回戦第2試合

 釧路高専Bチームの「はたらきリスとなまけリス」と対戦。釧路が輪を入れられずにいた一方で、自陣ポール3本、中央ポール2.5m左右、相手陣ポール右と順調に輪を入れて得点を重ね、0対6で勝利した。射出装置一門でも十分に試合が出来ることを旭川のメンバーのみならず、他のチームも確認したに違いない。

準決勝第1試合

 函館高専Aチームの「I wanna get(アイワナゲット)」と対戦。序盤、前の試合よりも早い開始31秒で自陣ポール3本に輪を入れ、0対3とリードを築いた。その調子で得点を重ねていく予定であったかもしれないが、旭川の輪がなかなか入らない。

 1分15秒に旭川は中央2.5m左に輪を入れたが、2対4と函館が得点しだしていた。1分24秒に3対4となり、旭川は引き離したいところであったが、輪がポールに掛からない。

 試合後半、両者ともに輪の装填でスタートゾーンに戻り、再びスローゾーンへ出て行ったが、函館は射出装置から輪が放てず、旭川は輪を放つが輪が入らずという状態であった。試合は結局3対4で旭川が勝利した。函館の射出装置が正常に動作していたらここでまけていたのかもしれない。

決勝戦

 地元開催で勢い付いていた苫小牧高専Aチーム「XYlert(キシラート)」と対戦した。前の試合までの得点実績だけでみれば、1.5倍、5点差と旭川のOrthrowsを上回っており、また前の試合のVゴールに迫る余勢が苫小牧にあるとして通常では勝てる可能性が低いと考えるのは自然なことであろう。

 函館のブラックフープシューターや釧路のスロペクスが旭川と同等以上の得点能力を披露しており、また同校Bチームの「ーUmbrellaー(アンブレラ)」がこの地区大会唯一の機構を採用していたため例年の傾向からすれば全国大会へ推薦を受ける可能性が高く、負ければ全国大会進出の可能性が低いことをOrthrowsのメンバーは自覚していたかもしれない。

 試合開始早々、旭川はリードされることを厭わずに苫小牧の行く手に輪を撃ち込んだ。射出位置の調整を出来なくさせるか手間取らせようと考えたのであろう。だが効果は無く、開始31秒で苫小牧に自陣ポール3本を先に決められ0対3とリードされた。そのまま苫小牧が中央ポールなどに輪をいれて大きくリードされるかもしれなかったが、自陣ポールへの射出を始めた旭川にとって幸いにも苫小牧の輪は入らず、旭川は57秒で3対3の同点に追いつくことができた。

 試合中盤、前の試合までの勢いが消えうせて輪が入る精度がなくなっていた苫小牧が輪の装填のためにスタートゾーンとスローゾーンを往復していた一方で、旭川は1分27秒に中央ポール2.5m左に輪をいれて4対3で逆転すると、1分44秒には右にも入れて5対3とリードを築いた。

 終盤、両者ともに輪がはいらず、スタートゾーンとスローゾーンの往復を繰り返すだけで、輪が入らず、5対3で旭川が地区大会を制した。

全国大会

 地区大会では重量制限最大25kgを越えていたために已む無く取り外した輪の装填装置を全国大会では機体の減量などで搭載に成功していた。実質一門しか機能していなかった射出装置を二門に増やし、操縦者を1名増やしてそれぞれの射出装置専用に配属させて「見かけ上の」得点能力を倍増させていた。さらに自陣ポールめがけて放たれた相手の輪を引っ掛けて入れさせない防衛用の部品も取り付けられていた。攻守に性能向上を施してきた旭川高専のOrthrowsは実際どこまでやれたのか?

1回戦第6試合

 金沢高専の「投げろ!ホースちゃん(ナゲロホースチャン)」と対戦。

 序盤、36秒で旭川は自陣ポール3本に輪をいれるが、51秒で金沢に追いつかれ3対3の同点。金沢の投げろ!ホースちゃんの輪が入らない一方で、旭川は、1分4秒に相手陣右、1分14秒に相手陣中に輪を入れて5対3とリードを築いた。

 後半、輪の補充にスタートゾーンに入っていた旭川は2分3秒にスローゾーンへ戻り、2分18秒に中央3mに輪を入れて6対3とし、輪が入りそうに無い金沢との試合を決定的にした。

 試合は6対3のまま終了し、旭川が勝利した。

2回戦第2試合

 調子がよければVゴールに迫る得点能力を持つ秋田高専の「ワッカマン」と対戦。旭川は苦戦を予想していたかもしれないが、ワッカマンの射出装置の輪を掴むところが試合中ずっと不調であったため、それは杞憂であった。

 旭川は開始32秒で自陣ポール3本に輪を入れると、1分9秒には中央ポール3本と相手陣ポール中に輪をいれて7対0と大差でリードし、試合が終わってみれば7対1の快勝であった。

準々決勝第2試合

 近畿地区大会優勝候補筆頭の奈良高専を彼ら得意の戦術をさせずに破って近畿地区大会を制し、全国大会でも前の試合で大量得点戦術の小山をVゴールで破った駆け引き上手の明石高専「わっさん」という強敵に、これまで一度も試合でVゴールをしたことがなかった旭川のOrthrowsが挑んだ。実は、全国大会ベスト4を賭けて対戦したチームのうち、地区大会も含めてVゴールがなかったのは旭川のOrthrowsと長野の「C-RAZair(シーレーザー)」だけである。但し、C-RAZairは大会全体で最高得点を取っていた。*1

 駆け引き上手の明石の「わっさん」相手に、旭川は開始早々仕掛けた。わっさんが二本掛けを行う射出位置あたりに邪魔になりそうな輪を放ったのであった。そのために自陣ポールに輪をかけるのが「わっさん」より若干遅れた旭川であったが、開始34秒には3対3の同点となり、序盤は旭川の目論見通りに試合が展開したのではなかろうか。

 明石が中央ポール狙いの射出位置に来たところで、旭川は相手陣ポール右を狙いつつ明石に輪を浴びせ始めた。43秒に明石が中央ポール左に輪を入れて4対3。一方旭川はポールではなく「わっさん」のローラー型射出装置あたりに輪を駆けることに成功。そして1分に相手陣右に輪を入れて4対4の同点に追いついたのも束の間、明石に二本掛けの輪を放たれてしまった。大きくリードされるところであったが、中央ポール3mの1得点で5対4の1点差の留まった。輪による邪魔が功を奏したのだろうか?*2明石はさらに中央ポール2.5m右にも輪を入れて6対4とするが、その直後から明石の輪が突然入らなくなったところで、旭川も中央ポール2.5m左(1分11秒)と中央ポール3m(1分37秒)に輪をいれて同点とし、さらに全国大会から追加した防御装置で自陣ポールの前で相手の輪を絡めとり、なんとか同点で凌げていた。しかし、搭載してた輪が尽きたため、2分過ぎに旭川は輪の補充に入らざるを得なかった。

 この隙に明石が連続して、相手陣ポール右に輪を入れて7対6(2分10秒)されてしまった。旭川は残りの輪を全て装填すると時間が掛かってしまうことから、2本しか輪を積めずに自陣ポールの防御に戻ってきた。明石が狙っていた自陣ポール中央の前で守っていたが旭川だったが、明石に輪を撃たせようと左右に動いていたのが仇となり、明石に輪を入れられてしまい、8対6(2分22秒)とリードされ、さらにVゴールされ得る不利な状況に陥ってしまった。

 終盤、旭川は残りの自陣ポールを守りつつ、搭載している残り2本の輪を入れなければ負けが確定してしまう状況であった。先ず一本相手陣へ向けて放つが入らず、明石に自陣ポールの防御体制に入られてしまっていた。明石も輪が尽きかけていたのであった。明石が輪を積極的には放ってはこないと判断したのかはわからないが、旭川は最後の望みをつなぐために輪の補充にスタートゾーンへ。明石はこの隙に旭川の自陣ポール狙った。

 残り5秒もない試合終了間際、輪を1本補充してスローゾーンへ戻るとまた明石がポールの前で防御に戻っていた。勝つことはできないと誰もがわかる状況であったが、旭川は最後の輪を放って試合は終了。8対6で旭川は負けた。強敵相手に駆け引きとそれを可能にさせる機体性能で勝ちあがってきた明石の「わっさん」を相手に策を講じた旭川であったが、全国大会をベスト8で終えた。

 

旭川高専A Orthrows(オルトロス) 画像URL

北海道地区大会 出場校データチェック ページより

上記サイトの都合で画像が閲覧できないことがあります。

特徴

  • 移動システム:未確認
  • 射出エネルギー源と格納方法1:二次電池
  • 射出装置1:2軸2モーターの挟み型ローラー(縦挟み)(汎用)x2
  • 照準/測位システム:なし(目視)
  • 通信システム:xbee
  • コントローラー:自作(通信機付、地区大会1、全国大会2)
  • 操縦者:地区大会1名、全国大会2名
  • 自律機能/自動機能:未確認
  • 妨害装置:地区大会なし、全国大会あり

射出装置

 射出装置は、模型(恐らくRCカー)用の二つのタイヤを間を置いて一本の軸に取り付け、それを二軸用意し、輪を挟む構造にした、所謂ピッチングマシーン型が採用されている。その射出装置が二門あり、それぞれに専用の同型の装填装置が載せられている。

 二門ある射出装置はどちらもヨー軸周りに180度以上回転することが可能となっていたため、機体全体を回転させなくても輪の射出方向を変えることが出来た。最大重量制限と他所の性能向上のためだろうか、全国大会では片側のみ射出方向が変えられる仕様変更を行っていた。*3この射出システムに最も近いのは、ローラーの輪の挟む方向の差異はあるが、呉高専の「Infinity-1(インフィニティ インバース)」と「降輪!なげわくん(コウリン!ナゲワクン)」であろう。

kosen-robocon.hatenablog.jp

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 射出装置に載せている輪の装填装置は、周囲に螺旋案内が造形されている軸を二軸用意し、それらを輪の長さに合わせた間隔に配置した構造をしている。螺旋のピッチ毎に輪を1本ずつ当て嵌めて輪を保持する運用となっていて、射出装置に装填済みの輪も合わせると一つの射出装置に輪を10本保持できる。輪を射出装置に装填するときは、螺旋案内がついた軸を同方向に1ピッチだけ回転させて射出装置に輪を落とす仕組みになっている。軸を回すのに軸ごとにエンコーダー付のモーターを利用しているので自動で1ピッチ(1回転)だけ回して輪を射出装置に補充できると推測する。

 装填装置自体は取り外し可能になっていて、輪倉(マガジン)としての扱いがされていたのだろう。モーターへの配線も取り外しが容易にしてあるようであった。旭川のOrthrowsは、二門の射出装置を使えるようにした全国大会でも全ての輪を搭載する仕様ではなかった。全ての輪を搭載する仕様にするか、取り外し可能であったマガジンを増やして複数の輪が螺旋案内に当て嵌め済みのマガジンと換装可能にしてあれば、Vゴールができたり、全国大会準決勝に進むことができたのかもしれないと想像している。ルールでは分離型が禁止されていたが、輪を装填するために必要なロボットの一部をスタートゾーンに置くことは禁止されておらず、ルールブックやFAQだけの解釈に自信が持てなかったチームが他地区や他校の換装用のマガジンをみて全国大会ではマガジンを用意してきたところがある(熊本高専八代キャンパス「挑戦車(チャレンジャー)」など)。旭川のOrthrowsはそれをしなかった、または出来なかったのはどういう理由だろうか。

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 射出時の輪の送りは少しばかり特殊な動作設計となっているようである。ソレノイドか何かで駆動する棒を勢いよく90度ぐらい回転するか垂直に立てと、その棒に輪の前端が引っかかることでその棒が立ったときの勢い・運動が輪に伝わり、輪がローラーがある方に移動し、やがて輪がローラーに挟まれていく。棒が立ったままでは輪の後端が棒に引っかかってしまうため、棒は直ぐに格納される。このような仕組みでローラーに輪を送っている。

 一つの射出装置のローラーは二つの軸それぞれに一つのモーターで駆動され、モーターの反対側に回転数を計測するためのローターリー型エンコーダーが取り付けられている。 仰角は固定されているので、射出位置と各ポールに対応した最適な輪の射出速度をモーターの回転速度を精度良く調整することで得ている。しかし、輪の飛形はどちらかというと、後端が落ち気味のポールに引っかかりやすい形態ではなく、水平近い形態になってしまうことが多いように感じられた。折角縦に挟むローラーであったのだから、ローラー軸の上下で回転速度に差を設けるといった変更を試そうとしなかったのであろうか?*4

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*1:失礼かもしれないが、2014年、2015年と、旭川は対戦相手に恵まれていたと言えるのではないか?

*2:影響はなかったのではなかろうか?

*3:ヨー軸周りの回転機能についてはもしかしたら違うかもしれません。地区大会から片側だけだったのかもしれません。

*4:どっちの軸を若干早く回せば後端が落ちる飛形になるだろうか?