高専ロボコンデータベースをつくっていくブログ

高専ロボコン第30回大会を終えてこれからも面白いロボコンであってもらいたいということで最近の高専ロボコンに感動した自分が満足できそうなデータベース構築のために情報を蓄積していくためのブログです。

岐阜高専A OBROT(オブロット)

 最近の高専ロボコンでは無線を介して操縦することが当たり前になってしまったようですが、2000年の第13回大会「ミレニアムメッセージ!!」までは有線でした。つまりコントローラーとロボットが線(殆どは電線)で繋がっていたのです*1。また、2001年第14回大会「Happy Birthday 39」から無線だけになりましたが、主要な無線技術としては赤外線だけが解禁されただけでした。ラジコンで使う周波数帯の無線が解禁になったのは2007年第20回大会「風林火山 ロボット騎馬戦」からでした。無線LANBluetoothなど*2一般でも利用される2.4GHzや5GHzの周波数を利用する無線が解禁されたのは2009年第22回大会「DANCIN' COUPLE ダンシング・カップル」からでした。そうした中でもコントローラーをなくしたり、有線が使える大会がありましたが、多くの種類の無線方式を選べるようになった期間は、歴史上から言えばまだ三分の一もなく、比較的最近ことだと思っても良いでしょう。

 無線が使えれば色々と「スマート」に出来ると思うのですが、無線にも色々と弱点というか急所があり、現実社会では有線やレーザー通信などが必要とされる環境もあります。高専ロボコンという一種のファンタジー世界に現実感を持ち込まれると興醒めしてしまいますが、無線が使えない状況というのを抽象的にアレンジして持ち込めれば輪花繚乱のような面白いルールが期待できるのではないでしょうか。例えば、無線と有線のロボット2台が協力する、無線ロボットが自動で自律型に切り替わっても動けなくなった状況で有線ロボットがサルベージしにいくなどのルールが考えられます。より具体的には、2012年第25回大会「ベスト・ペット」で相手チームに一種の課題を出されたように、無線ロボットが通り抜け難いように金属製の筒を組み合わせて通路(迷路)を作ってから試合を開始して無線ロボットがその通路を通り抜けるようにし、無線ロボットのリペアのときは有線ロボットで回収しに行かなければならないルールが考えられます*3。もしくは無線ジャマーを利用することもあってもよいでしょう。*4

試合内容

 初戦は2回戦第3試合、石川高専Aの「WoF(ウォフ)」との対戦であった。岐阜は開始35秒で自陣ポール3本に決めて3対1とリードし、一度スタートゾーンに戻ってから中央ポール2.5m左に決め4対2と前半リードを保っていた。しかし、前半に調子が上がらずリペア宣言していた石川が一転。岐阜がスタートゾーンへ戻ったり狙ったポールに輪が一つも入れられないでいたところ、石川が自陣ポール3本をようやく決めて4対3とし、中央ポールではなく相手陣ポールに狙いを定めてきた。岐阜はポールを守る様子もなく、相手陣ポールを狙いだした石川に立て続けに終了間際まで得点され続け、同点どころか、4対7の逆転とされ、負けてしまった。岐阜の選手の口を開いた唖然とした表情が印象に残った。

岐阜高専A OBROT(オブロット) 画像URL

東海北陸地区大会 出場校テータチェック ページより

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特徴

  • 移動システム:三輪操舵三輪駆動+二輪補助輪
  • 射出エネルギー源と格納方法1:二次電池
  • 射出装置1:2軸2モーターの挟み型ローラー?(横挟み)(汎用)x1
  • 照準/測位システム:ロボット搭載のカメラ映像を手許のディスプレイに移して照準を合わせているカメラ照準システム
  • 通信システム:Wifi(5GHz)
  • コントローラー:自作
  • 操縦者:1名
  • 自律機能/自動機能:未確認
  • 妨害装置:なし

マルチステアリング

 マルチステアリングというと、大型トレーラーの内輪差やタイヤの磨耗を減少させるのに利用される操舵のための車輪が多数ついたものを想像させてしまうが、四輪以上の操舵輪があれば呼ばせていることが多いようだ。岐阜高専のOBROTのように三輪でもそう呼んでよいだろう。ただ、三輪駆動でもあるため、もっと適切な呼び方があってよいだろう*5


新型マルチステアリングフルトレーラ

 システムとしては都城高専の「進め!みやこのゾウ(ススメ!ミヤコノゾウ)」を三輪化したものと言ってよいだろうか。平行移動するときは同位相、回転をするときは三つの駆動輪が同一円上にあるとしたときの適切な角度*6の位相にしているようだ*7。補助輪を二輪追加しているが、四輪にしなかったのは何故か?軽量化のためであろうか? 

kosen-robocon.hatenablog.jp

射出装置

 100円ショップで手に入れたゴミ箱2つで勝利と全国大会進出を目指そうとする洒落っ気がユニークであり、私は気に入っている。

 ゴミ箱の形状は「円錐台」で 側面を太いスリットができるように向かい合わせ、ローラーとして利用している。そのため回転軸は垂直ではなく、射出方向を正面にしてみると左のローラーは左外側に、右のローラーは右外側に傾いている。ローラーの下の方に輪を通せば低速の射出速度で、上の方に通せば高速の射出速度で輪を放てる。射出速度の調整のためにローラーに直結されているモーターの回転速度を電子回路/ソフトウェアで調整するのではなく、機械的に選択可能にしているところもユニークだ。

 ローラーに輪を通す位置を変更する機構を装填装置に採用しているため、多くのチームが採用している装填装置の類とは異なっているだろう*8

 射出速度だけで自陣、中央、相手陣のポールを射ち分けるのではなく、仰角もポールに合わせて変更していた。輪の飛ばし方(飛形、速度、到達高度、射出角度など)の自由度が高くできるが、仰角を変更しない機構と比較した場合の優位性はどれだけあったのだろうか?考察はどこかにないだろうか?*9

コントローラーと照準システム

 いつの頃からかは確認できていないが、岐阜高専というとスタンディング・デスクのような大きなコントローラーでロボットを操作している印象がある。 もっとも鮮明に記憶に残っているのは2009年第22回大会「DANCIN' COUPLE ダンシング・カップル」に出場した「Spica(スピカ)」のターンテーブルを模したコントローラーである。コントローラーをみただけでもロボットにさせたいことが分かるようになっていた。OBROTのコントローラーもそうした伝統を踏襲したかのような意匠が凝らされており、さらに移動と射出をそれぞれ別の操縦者が担当可能にする機能的設計もされていた*10。今後もこの伝統は続けて欲しい。

 コントローラーの各部に目を向ける。ルールに従って移動可能にするためにコントローラーの底部にはキャスターが取り付けられている。最下部の段(ラック)にはノートPCを搭載していただろうか。最上部には操縦桿のようなものやレバーが幾つかあり、照準のためのディスプレイが真ん中に設置されている。ここで一つ操作性に関する疑問が出てくる。キャスターで移動してしまうコントローラーの上部を操縦桿またはレバー操作していると、コントローラー自体が動いたり、その動きのために操作に影響がでないのだろうか?また、動きやすかったとすれば、動きを抑えるために掌低でコントローラーが動かぬように抑えていたのではなかろうか?

 照準システムは、ロボットの射出装置の真下に取り付けられたカメラで撮影している映像をコントローラーに送り、方向を定めるためだけに利用しているようだ。距離を測ることまでしていたかは分からない。出場校データチェックのページにはサブ操縦者がロボットみながら仰角を調整するとあるので、おそらく距離だけでなく仰角も計測していないのではないかと推測している。

 今回の東海北陸地区大会は8地区中もっとも早くに開催された地区大会であり、最後の関東甲信越地区大会より約4週間も前に行われていた。地区大会開催日は仕方のないことなのだが、4週間ぐらいあれば得点性能をもっと上げられる余地がこのOBROTも含めて東海北陸地区の幾つかのロボットにはあったのではないかと思っている。OBROTの場合は、ひょっとすると電子回路・センサー的な解決策を求めない方針だったかもしれないが、それでも4週間あれば錬度・得点力を上げることは可能であっただろうと思う。 

加筆

 メインコンピューターボードにはRaspberry Pi 2を採用していた。それ用のカメラも採用し、ポールを捉えた映像を手許のコントローラーのディスプレイに投影していた。通信手段としては5GHz帯のルーターを利用してロボットとコントローラーを通信させていた。

www.slideshare.net

*1:ただし、1998年の第11回大会は接地禁止ゾーンに入れるロボットは自律型だけでした。

*2:ZigBeeも2.4GHz帯が利用できますね。

*3:観客・視聴者にはロボットの動きが殆ど見えなくなるので不採用ですね。

*4:映像的に分かり難いからこれも不採用ですね。

*5:全然関係ないけど、MatlabOctaveか、どちらかにトレーラーの軌跡を解析するデモが入っていて、マルチステアリングにするとどうなるかということも試せたはず。

*6:この場合、ロボットのヨー回転軸からみた駆動輪回転軸の相対角度

*7:摩擦抵抗を考慮してそういう角度にしてないかもしれないが、理想上ではそういう角度にするよね。

*8:確認ができないので推測です(^^;

*9:これまでの高専ロボコンの歴史を見ているとモノを飛ばす競技は5年に1回ぐらいあるようなのでじっくり調べ、研究しておくのもありでしょうね。

*10:試合では殆ど一人で操縦していたかのように映っています。