高専ロボコンデータベースをつくっていくブログ

高専ロボコン第30回大会を終えてこれからも面白いロボコンであってもらいたいということで最近の高専ロボコンに感動した自分が満足できそうなデータベース構築のために情報を蓄積していくためのブログです。

北九州高専B Wanna Be(ワナビー)

 高専ロボコンを閉じた世界のファンタジーとして楽しみたい。

 よく、何かの役に立つのか想像できないとか、あんなローテク持て囃してどうするんだとか*1、進学や就職に有利だとか、あのような若者エンジニアが居れば日本の将来は明るいだとか、小さな子供がものづくりへの興味を持つのに適しているだとか、ネガティブ(否定的)、ポジティブ(肯定的)、両方の意見を見聞きします*2。そんなこと考えずに楽しみませんか?例えが良くないかもしれませんが、甲子園で行われる全国高校野球選手権大会を直接球場で、またはテレビやラジオを介して楽しむ方がいらっしゃると思います。一球一球を追ってるときに、ドラフト1位指名されるんじゃないかとか、野球ばっかりやっててプロ野球や社会人野球に行けなければ人生を謳歌できないようになるんじゃないかとか、簡単なフライも取れないでよく代表になったもんだとか、そんなこと思って見てますか?

ファンタジーの中でヒールに徹してくれた度量が大きい「あばうたぁ〜ず」の傑作機

北九州高専B Wanna Be(ワナビー) 画像URL

NHK高専ロボコン ライブストリーミング サイト 九州沖縄地区大会 出場校データチェック ページより

上記サイトの都合で画像が閲覧できないことがあります。

 昨年の九州沖縄地区大会での優勝、そして全国大会の番組で大きく取り上げられていたので、その活躍はここで改めて雑な情報を付与されながら語られなくても、このブログを閲覧している方なら思い出せると思います。でも、敢えて書いておきたい。

地区大会

 3試合連続の逆転勝ちを収めた地区大会のヒーローである。言ってみれば、まだアナキン・スカイウォーカーであった。

初戦2回戦第4試合

 対戦相手は佐世保高専Aチーム の「はなkasaじいさん」である。自陣ポールに輪を自動で入れられるとあったが、2本目を入れたところでで何か反則でもあったのか、審判に競技を何十秒か停止され躓く。一方、佐世保は試合中ずっと1本目の自陣ポールに入れるのに苦労し続ける。停止後、北九州Wanna beは自陣ポールを決め、佐世保が動いていない様子をみて、中央ポールではなく、相手陣ポール、しかも同じポールを狙って射出し続ける、何やらメモを取りながら。結局5対1で勝利する。後の試合から翻って考えると、この試合を相手陣ポールへの射出の調整に使っていたと見てもおかしくないだろう。

準々決勝第4試合

 準々決勝からは実力伯仲の試合が続く。都城Aチームの「うり棒ブラザーズ」との対戦である。赤つなぎを着用するチーム同士の対決である*3。若干リードされ気味だったが、お互い開始14秒で自陣ポールに3得点で3対3の同点。そこから調子のよい都城の輪から自陣ポールを守りながらリードし、開始41秒で4対5であったが、5対5、6対5と追いつかれ、逆転され、しばらく膠着状態。暫くして都城の輪が尽きそうになり、輪の装填のためにスタートーゾーンへ近づくのを待っていたかのように相手陣ポールを狙い始め、6対6と同点、そして6対7と逆転のリベンジ成功。そのまま3分を迎え勝利。前の試合の調整がここで活きたのだろうか?

準決勝第1試合

 大分高専Bチームの「Golgoole」との対戦。奇しくも、輪を回転させて得点する者と防御する者との対決である。自陣ポールへの得点は地区大会で最も速くて正確、しかもVゴールよりも中央ポールの複数本掛けで大量得点をとる勝利の方程式で大会最高の得点を叩きだして勝ち上がってきたチームに対して、大量得点ができない北九州は大分の守備の弱さと隙を突いた。

 序盤、自陣ポールへの得点はやはり大分が速かったものの、直ぐに追いつき、開始32秒までは3対6とリードしていたが、33秒に大分の中央ポール3本掛けをされ、13対6と逆転され、さらに2本掛けのダメ押しで18対7と引き離される。しかし、大量得点されて差をつけられても動じることなく、大分が輪の装填している間や中央ポールを狙って大分側のポールが守られていない隙を狙って1ポールずつ加点していき、Vゴールまであと1ポールに迫った。そんな差し迫った状況で大分が輪を回転させて守備に回ると思いきや再度輪の装填に行ってしまった。その間にVゴールを決めて北九州Wanna beは勝利した。

決勝戦

 昨年の全国大会の覇者、熊本高専八代キャンパスBチームの「挑戦車(チャレンジャー)」との対戦である。動きは遅いものの正確無比な狙撃を得意とする。北九州Wanna beはどう立ち向かったのか?

 自陣ポールで3得点するのは当たり前とばかりに開始25秒で3対3と並ぶが、直後から八代にリードされ続け、53秒で8対5となり、八代がVゴール優勝するのに北九州側の真ん中のポールに入れるだけとなり、北九州は絶対絶命のピンチを迎える。しかし、ここでホースを回転させた盾、通称「花守」で北九州は守りに入る。流石の八代も入れるのは無理と判断したのか、八代は相手陣ポールへどんどん輪を入れて得点で優位に立つ戦術に変更し、9点を得る。北九州の輪が入っていない八代側のポールの前から挑戦車が動いたのを見計らい、中々相手陣ポールへの輪が入らなかった中で、北九州は9対8と得点ではまだ負けていたもののVゴールへあと1本という状況に持ち込んだ。

 手持ちの輪が残り少ない状況で、八代は、北九州の隙を発見したのか、花守の下の空間に輪を放ち、あわやVゴールかと北九州をヒヤリとさせた。北九州もどうしても最後の1本が入らず、輪を撃ち尽くしてしまう。そこで両者は輪の装填のためにスタートゾーンに戻り、最後の1本を入れるためにほぼ同時に再スタート。先ほどヒヤリとさせられたのを思い出したのか、八代に北九州側への移動を余儀なくさせる絶妙な位置取りで、中々入らない最後のポールに微調整しながら輪を打ち続けた。八代はそれを直ぐに勘付いたが、移動の遅さが仇となったのか、なかなか花守の真下に打ち込める位置へ辿りつけない。そんな状況の中、4輪目にしてやっとのことで北九州の放った輪がポールに入り、Vゴールで地区大会優勝を決めた。

 決勝戦を文章に書き起こすために私は何度も映像を確認しました。注意して見れば見るほど発見があり、決勝戦に相応しい内容でした。地区大会・全国大会あわせての名勝負の一つとします。

 何度も確認したので八代高専Bチームの「挑戦車(チャレンジャー)」の記事も、決勝戦の箇所を修正しました。

 

kosen-robocon.hatenablog.jp

 全国大会

  自らヒール役を買って出ていた*4。彼らのロボットも暗黒を帯びていた。ダース・ベイダーと呼ばずにいられない。

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1回戦第9試合

 福井高専のイカフライとの対戦。2回も同点に追いつかれるも、終始リードを保ちながら、Vゴールで勝利した。開始1分24秒で7対7の同点で互いに相手のポールに入れて加点するかVゴールを決めるしかない状況を迎えたとき、イカフライは加点の戦略を取っていたためだろうか輪切れを起こして輪の再装填にスタート地点へ戻っていた一方で、輪を温存していた北九州はその隙に連続して輪をいれ続け2分6秒でVゴール勝利。以後、福井高専イカフライのアピールタイムとなったため、花守の回転を止め*5、紳士的な振る舞いをしていた。

2回戦第6試合

 香川高専高松キャンパスのBeehiveとの対戦。これは私個人の見方だが、奇しくも、縦に輪を挟む2ローラータイプで、しかも射出角度を変えられて、相手ゾーンに近づかなくてもその場で射出方向を変えるだけで相手陣にあるポールに輪を入れられる能力を持つロボット同士の対決となった。勿論、細部の違いはある。ローターの駆動に用いているモーターの個数が1個か2個かの違いで、北九州は1ローターに1モーターを、高松は2ローターに1モーターを割り当てている。

 序盤の自陣ポールへの得点では、輪の前に行くまでに何かトラブルでもあったのか、ポールの前に行くまでに止まってしまったため、3対0とリードされてしまうが、直ぐに追いつき、開始31秒で3対4と逆転した。その後リードしながら得点を重ねていくが、49秒で6対6の同点に追いつかれた。

 お互い相手のポールに入れなければ勝てない状況になり、北九州は残り2分と少々を回転する花守と、おそらく八代の「挑戦車(チャレンジャー)」に気付かされたのであろう花守の下の空間を左右から直線的軌道で狙い撃ちされるのを防ぐ暗黒色のまるでダース・ベイダーが纏っているマントのようなもので守りきれると思っていたのかもしれない。その状況が始まってから25秒の瞬く間に、高松に、フェイントをかけられ北九州側から見て右の自陣ポールを奪われ、続いて最も効率よくポールを守れると北九州が想定していたであろう中央ポールの前に誘導されたために左の自陣ポールも献上し、そして最終的に榴弾砲よろしく大きな重たい輪の高弾道弾が打ち込まれたために花守が耐え切れずVゴールを許してしまった。北九州の操縦者によると、回転する花守は高松のような大きな、重たい、そして高さによって速度を増した輪を想定していなかったという。

特徴

  • 移動システム:四輪オムニホイール
  • 射出エネルギー源と格納方法1:圧縮空気(ペットボトル)
  • 射出エネルギー源と格納方法2:2次電池
  • 射出装置1:エアシリンダ押出カタパルト(押出型)(自陣)x1
  • 射出装置2:2軸2モーターの挟み型ローラー(縦挟み)(中央、相手)x1
  • 照準/測位システム:自陣ポールの検出(移動距離検出?機体の向きも検出?)、中央・相手陣ポールに対しては自陣用の装置で機体の向きを情報を利用している?
  • 通信システム:未確認
  • コントローラー:ゲームパッド+通信デバイス拡張
  • 操縦者:1名
  • 自律機能/自動機能:自陣ポールへの自動射出
  • 妨害装置:花守(複数の輪を回転させて自陣ポールに相手の輪を入れさせない)

自動射出システム

 とりあげるべきところは沢山ありますが、それは後日追加します。先ずは自陣ポールへの自動射出システムを取り上げるべきでしょう。

 機体下部の中心あたりにローターリー・エンコーダーらしきものが前後*6に一つずつあるのが確認できます。確証はないが、恐らくスタートゾーンからのローターリー・エンコーダーの回転から移動距離を計算し、自陣ポールの位置を割り出していると想像します。正確な位置の割り出しは難しい気がしますし、自陣ポールへ射出するときの移動の仕方も制限されそうなのですが、結果を見れば十分な精度であったことは明らかです。また、花守側の駆動システム1つにつき1本ずつ、合計2本のステーが伸びていますが、ポールとの射出方向の距離を機械的にあわせるためについていると想像します。

追記(2016/7/4):

 答え合わせのつもりで半年程経ってから公開されている情報に当たってみると、昆虫の触覚のような「アンテナ」二本(上述のステー)が突き出ており、何かにあたると根元から折れ曲がり、どういう精度かわからないが、折れ曲がった角度を検出できたようである。自陣ポール側のフェンスに触れさせたときの二本のアンテナの折れ曲がり具合から、フェンスからの位置と機体の向きを検出していたようである。より詳細なコメントを寄せられたい。

ローラーの回転数制御

 2つのローラーそれぞれに、モーターが1つ、そして恐らく狙うポール毎に定めた輪の射出速度(ローラーの回転速度)を保つためにローラーの回転速度を計測するためのロータリー・エンコーダーが1つ取り付けられている。このローラーを載せている台の仰角を変更するシステムと合わせて、一箇所から中央と相手陣のポールを狙って輪を飛ばすことを可能としている。

 DCモーター(直流モーター)は、予め印加する電圧と回転速度を測っておけば、そして今回の場合は射出後にモーターの回転速度が戻る時間を計測しておけば、態々回転速度制御のためのセンサー類や電子回路を追加しなくても、その特性により回転速度をそこそこの精度で維持できると思います*7。しかし、狙うポール毎に射出速度の変更をするのであれば変更時にそうした特性を思い出さなければならないし、精度が回転速度に大きく依存するのであれば常に回転速度を制御しなければならない。また、DCモーターは構造によっては消耗しやすく使う毎に回転数が比較的変化しやすいので、その変動が大きく影響するのであればやはり制御をしたほうがよい。

 Wanna beのローラーにはPID制御かPI制御か、もしくはもっと高度な制御方法を採用しているのかはわからないが、制御をしていることは確かなようだ。2つのモーターの回転数を同時に合わせるのは比較的難しいと想像するが、どういう制御方法なのか知りたいところである。

 さて、ここで疑問を呈してみる。全国大会で対戦した香川高専高松キャンパスのBeehiveは1つのモーターが2つのローラーへ恐らく機械的に動力を伝えて回転速度制御をしているが、2つのモーターを使っている場合との違いはあるのか?他のチームには4つもモーターとローターを使っているところもあったが、速度制御の点においてはどうだったのだろうか?

他の誰も考えつかなかった防御システム

 このロボットの最大の特徴が、本来飛ばすべき輪を6個も使って、花を茎を摘んで回転させるかの如く、遠心力で6つの輪の花弁を咲かせる、通称「花守」である。輪を積むだけの防御システムが多い中で積極的に動かして守備範囲を広げたアイディアを考えたのは彼らだけであろう*8

 香川高専高松キャンパスのBeehiveの、大きくて重たい輪と、どこのチームよりも高く飛ばす高弾道戦術に敗れはしたが、全国大会バージョンであれば、Beehive以外はとても勝てそうもないと想像する。北九州高専のあばうた〜ずの想定は凡そ正解としてもよいだろう。その想定の具体的な数字、設計値はどうだったのだろう?花守に搭載する輪の大きさ、モーターの回転速度、耐えられる相手の輪の大きさなど、物理の運動量保存則を基本に、守りきれるか、押し切られるかの判別式があってもおかしくないが、そこまでは考えていなかったようだ*9。ひょっとしたら、高弾道が放たれたときに、花守の回転数を一瞬でも上げていたら、弾き飛ばせていたかもしれない*10

 地区大会までは、まるでダース・ベイダーが纏っている黒いマントのような防御用のシートは無かった。熊本高専高松キャンパスの「挑戦車(チャレンジャー)」に花守の下を狙われVゴール負けするを危機に直面してから、全国大会へ向けて改良したものと思われる。

*1:最近はある意味で先端を走っていることもありますよね。

*2:四半世紀前から見聞きしています。

*3:赤つなぎの着用はどっちが早い・初めてなんでしょうか?

*4:最近だと悪役のことをアメリカの呼び方に倣ってヴィランと呼ぶそうですが、プロレス染みたお約束アリきの悪役なのでヒールと呼んでよいでしょう。

*5:電力が勿体無かったからという見方もあるでしょう。

*6:どちらが前なんでしょうね?

*7:現役でもないし、専門家でもないので間違っているかもしれません。

*8:高専ロボコンでは製作に入る前に幾つかのアイディア・シートを運営側に提出して選択してもらうことがあり、選ばれなかった可能性があるので断定はしなかった。

*9:比較的簡単だと思うので誰か花守の物理的解析に挑戦してみて欲しいです。

*10:昔の大会で、金沢高専の百万石ファイターがモーターに印加する電圧を昇圧回路を使って12Vから13Vにすることでラグビーボールを飛ばす飛距離を伸ばしていたことを思いだしました。