高専ロボコンデータベースをつくっていくブログ

高専ロボコン第30回大会を終えてこれからも面白いロボコンであってもらいたいということで最近の高専ロボコンに感動した自分が満足できそうなデータベース構築のために情報を蓄積していくためのブログです。

松江高専A それいけ!にしだマン(ソレイケニシダマン)

 

試合内容

 地区大会の初戦は1回戦第1試合で、徳山高専Aチームの「捲土重来(ケンドチョウライ)」との対戦であった。本来なら準決勝ぐらいであたってもよさそうな実力派同士の対戦であった。序盤の自陣ポールの獲得では徳山にリードを許していたものの、中央ポール全てを獲得するまでに同点と逆転を何度も繰り返すシーソーゲームの接戦になり、どちらが勝ってもおかしくなかった。開始2分過ぎ、両者相手陣ポールへ入れる段階になっても7対7の同点であったが、直ぐに松江が8点目を決め、Vゴールに迫った。そのとき徳山に撃てる輪がなくなったため、補充しにスタートゾーンへ戻らざるを得なかった。その隙にVゴールの9点目の射出位置を決め、徳山が再度競技フィールドに戻ったと同時にVゴール(9対7、2分54秒)を決め、勝利した。今大会で白熱した接戦の一つに数えられるだろう。

 次戦、2回戦第1試合に米子高専A「Shooting☆(シューティングスター)」と対戦。序盤、自陣ポールでの得点で先制されたが開始30秒で1対2で逆転成功。40秒過ぎに両者ともスタートゾーンに戻って調子の出ないロボットの調整をしだした。松江が先にスタートゾーンを飛び出すが、またスタートゾーンに戻ろうとするときに観客席に輪を飛ばしてしまい、ルールにより失格。米子の勝ちとなってしまった。失格が出たのは全国大会も含めてこの試合だけだろうか?Vゴールが可能な機体であったのでこのような形で負けるのは非常に残念であった。 

松江高専A それいけ!にしだマン(ソレイケニシダマン) 画像URL

NHK高専ロボコン ライブストリーミング サイト 中国地区大会 出場校データチェック ページより

上記サイトの都合で画像が閲覧できないことがあります。

特徴

  • 移動システム:二輪駆動タイヤ+二輪補助輪
  • 射出エネルギー源と格納方法1:2次電池(+輪の送り出し用圧縮空気(ペットボトル)?)
  • 射出装置1:4軸4モーターの挟み型ローラー(横挟み)(汎用)x1
  • 照準/測位システム:なし(目視)
  • 通信システム:未確認
  • コントローラー:自作
  • 操縦者:1名
  • 自律機能/自動機能:未確認
  • 妨害装置:なし

射出装置

 ローラーが4つ以上、それを回すためのモーターが4つ以上あるのは、これまで見てきた中でも香川高専詫間キャンパスの2台ぐらいしかなかったことから、珍しい構成を採用している。輪を加速させやすく、輪を遠くに飛ばしやすい、回転速度を維持しやすいなどの利点があるのだろう。

 輪の装填には圧縮空気を動作エネルギー源とした機構が採用されていると推測している。輪倉(マガジン)から丸い輪がカタパルトに落ち、左右から何かに挟まれて楕円または長円に変形していき、最初のローラーに達して輪が射出される仕組みになっていると想像している*1。この機構はこれまで見てきた中では唯一ではなかろうか。

 台車部分の駆動装置が射出方向に対して直行していて台車では射出距離の調整が難しく、射出装置の角度が固定されていることから、ローラーの回転速度を調整・制御する装置がついていたのではないかと想像している。

監督

  ロボットそのものにクローズアップをしたかったが、それよりも注目すべき記事(下記参照)が公開されていたので、その記事内容について徒然書いてみたい。

 松江高専ではNHK高専ロボコンに教員は「監督」として参加しているようだ*2。他校では「顧問」としての参加が多いと思っている。呼び方が違うだけかもしれないが、違いがあると思っている。昨年放送された全国大会の番組で紹介された奈良高専の元顧問の方のように、学生の自主性に任せ、傍らでじっと見ていて、学生を鼓舞するなどの精神的な支援をしたりするのが顧問である*3。学生がロボットの開発に専念できるように融通の利く環境を整えたり、学内政治から影響を受けないように学生達や環境を守るといったことも含めてもよいだろう。監督は、さらに学生達の活動を観察し、より良い方向に導くため、技術的なことも含めた全般的な指導を適度に行っているのだと想像する。想像するのは高専ロボコンの「監督」をしている方にお会いしたことがないからである。

 松江高専には元校長であった荒木光彦先生に京都大学時代に教授をなさっていた時代に一度お会いしたことがあるぐらいで何の縁もなかったのだが、21世紀になってから松江高専高専ロボコンの監督をなさってきた別府俊幸教授の下記の記事、『チーム作りのデザインエンジニアリング:小さなチーム育成論』を読んで非常に共感できる部分があって、急に親近感が沸いた。「やっぱりそうか」と私(達)が参加していた20世紀中に気づいていたことを明確に文章化して下さっていたということかもしれない。松江高専に特化している部分もあるかもしれないが、高専ロボコンのようなものの類*4では特にありがちな組織のあり方や振る舞いをどうにかしたいなど、マネジメントに悩んでいるチームは読んでおいて損はない*5

 監督を始めて14年とあったが、初年に地区大会決勝同校対決、4年目に全国制覇、その後も地区大会の決勝に進むことが多く、9回連続全国大会進出記録を持っていて、中国地区で一番の記録を保持している*6。監督を始める前と比べると明確な差を感じられる*7。優秀な学生がいたこともあったのだろうが、その14年と結果を摺り合わせてみれば、「監督」が素晴らしいのだと気づかされる*8

 共感したところというのは、やはり、コンセプトを一つにし、それがぶれないこと、そして目標を定めてそれに邁進していくことである。それぞれの高専・キャンパスや教員・学生の事情、つまり教育方針・配慮・環境・経験などの違いがあるので、記事中の人数や方法はそのまま適用は出来ないだろうし、全国制覇をしたい、勝敗はそこそこに兎にも角にも凄いのを作って驚かせて注目されたい、伝統の設計思想・使用素材を受け継いでチームのアイデンティティを大きくしていきたいなど、様々あるだろうが、行き着くところはそれである。例えば、今回優勝した奈良高専の「大和(ヤマト)」のチームも、悲願の全国優勝という目標は崩さず、完成させようとしていた(最強の)防御ロボットに勝つ方法を見つけた途端にその方法を実現できるロボットに変更していったという。目標実現のために妙な拘り癖を組織から削ぎ落としていたとも言える。

 拘りというと、記事中で共感が弱まった部分があって、メカに拘り過ぎてオタク云々の箇所が、どうも引っかかっている。「結論を導くための一つの十分条件」として、論理的構造が書かれているのであって、ライティングでいえば結論や主張に導くためのコントロール・センテンス/パラグラフみたいなものであり、一つの例だと思っている。本当に参考にしたい方は論理に当てはめられた具体を真に受けてはいけないと思う。というのも、木製に拘ることや、跳ぶことを優先的な目標の一つとしたいことだってあるからだ。

 その他、異なる意見を拾う・ディベートしてみるといったことや、失敗と経験の積み上げに関しても強く共感できたが、長くなったので、後日にしよう。それにしても、参加していた時代を思い起こさせるような内容である。

www.nikkeibp.co.jp

技術者の姿―技術立国を支える高専卒業生たち

技術者の姿―技術立国を支える高専卒業生たち

 

*1:紹介・クローズアップ資料がないので推測でしかありません。

*2:下記の記事の(1)の冒頭で確認できます。

*3:教員引退の年にもう一度国技館に行きたかった・行かせたかった思いで一杯の胸中を地区予選大会後の解散式で吐露し、その後学生が5年生までロボコンを続けたエピソードがある。

*4:鳥人間コンテストとか、エコランだとか、学生フォーミュラーとか色々ありますよね。

*5:何年か前、「もし高校野球の女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら」という書籍がトリプル・ミリオンセラーに迫る発行部数になったが、それも読んでおいても損はない。「もし高専ロボコンの女子マネージャーがドラッガーの『マネジメント』を読んだら」というパロディを誰か書いているんじゃないかと思っている。

*6:Wikipedia高専ロボコンの変遷を参照した。

*7:この方が監督をされる数年前から松江高専は結果を残すようになってはいました。

*8:そう思っていない松江高専ロボコンに関係している学生はいるのかな?(笑)