高専ロボコンデータベースをつくっていくブログ

高専ロボコン第30回大会を終えてこれからも面白いロボコンであってもらいたいということで最近の高専ロボコンに感動した自分が満足できそうなデータベース構築のために情報を蓄積していくためのブログです。

長野高専B infinity(インフィニティ)

 関東甲信越地区の高専OBには輸送機械関連、特に自動車業界でご活躍された方がいらっしゃいます。旧育英高専(現サレジオ高専)出身のレーシングカーのデザイナーや製造会社経営などのレースの世界でご活躍されている由良拓也さん。旧航空高専(現産技高専荒川キャンパス)出身でホンダでエンジンの開発に携わり、ホンダのF1プロジェクトリーダー、さらにマクラーレーンやフェラーリなどのF1チームでエグゼクティブ・エンジニアや開発主任としてご活躍された後藤治さん。後藤さんは、1993年第6回「ステップダンス」の関東甲信越地区大会の審査員をされたことがあります。*1高専ロボコンの大会に審査員としてOBが招かれることがあるようですが、最近だけのことではなく20年以上前にもあったということですね。

 丁度、長野高専のロボット/チームの記事を書いておりますが、長野高専というと、日産の数々の有名車種の車両設計や、世界的な耐久レースで優勝したチーム監督もされ、そしてあのGT-R(R35)の開発責任者であった水野和敏さんがいらっしゃいます。*2*3*4*5

 電子系に目を向けると、長野高専といえば、X線CTや次世代型カプセル型内視鏡などを開発している医療用映像機器メーカーのアールエフを創業し経営されている丸山次郎さんがいらっしゃいます。私がこの方に注目したのは、謎のTVCMと私の故郷の一つに立派な事業所を設立したからです*6丸山さんのご経歴を見ると、高専在学中にアナログのブラウン管テレビの修理を行う事業をされていたそうで、根っからの企業家エンジニアという印象を受けます。

 高専在学時代に事業を行っていたという企業経営者といえば、高専ロボコンにも参加していたという、さくらインターネットの創業者で代表取締役である田中邦裕さんがいらっしゃいます。寮生であったのに、どうやってレンタルサーバー事業を行っていたのでしょう?*7*8

 人生ヒトそれぞれでしょうが、どう生きるか、参考にはなると思います。

試合内容

 初戦は1回戦第3試合。小山高専Aチームの「タートルリンガー」と対戦。序盤、長野は自陣ポール3本獲得をそつなくこなし、開始25秒で3対2とリードして、大量得点を狙いに移った。58秒、長野は中央ポールへ向けて回転する射出装置から2本の大きな輪を放ち、複数本掛けが期待されたが、1本しかかからず、4対2と1点リードを進めただけだった。その後は、相手陣ポールへ合計4回も輪の4連射出を行うが、一つも入らず、小山が自陣ポール3本しか決められなかったのが幸いして、4対3で辛くも勝利した。

 二戦目、2回戦第7試合に、都立産技高専品川キャンパスAチームの「花輪投(カリントウ)」と対戦。長野は若干のリードをしながら得点を重ねていくが、1分5秒に3対3の同点に追いつかれ、大きな二つの輪で中央ポールの複数本掛けを狙うも1点加点したのみで、直ぐに品川に追いつかれ、4対4(1分23秒)の同点で試合時間を折り返した。試合後半、両者とも加点ができずに4対4のまま試合を終えたため、審査員判定となり、審査員三人全員が長野を推し、次戦へ進むことができた。審査員の心象を良くしたものは何であったか?

 三度目の正直と言うべきか。三戦目、準々決勝第3試合で、前の試合でVゴールに迫る8本8得点していた木更津高専Aチームの「花鳥風月(カチョウフウゲツ)」と対戦した。長野のinfinityは本来の実力を見せた。序盤、木更津が不調で一点も入れられずにいた一方で、長野は順調に23秒で自陣ポール3本に輪を入れ、続いて中央ポールで二本掛けを成功させ、さらに相手陣ポール右にも輪をいれて、0対9と大きなリードを築いた(1分11秒)。試合後半に長野は得点を追加することはできなかったが、木更津が不調で得点が伸びず、4対9で長野が快勝した。

 準決勝に進んだ長野のinfinityは、Vゴールで勝ち上がってきた優勝候補の一つである産技高専荒川キャンパスAチームの「荒鯊(アラハゼ)」と対戦した。この試合に勝てば、長野のメンバー達は決勝戦で同校対決という地区大会ではこの上ない成功を夢みていたようだったが、荒鯊の精度の前にそれは儚く消えた。序盤、荒川が自陣ポールに2本しか輪が入らなかった時にはその機会が訪れたかのようであったが、一度目の射出を失敗した荒鯊が輪の装填を終えて40秒過ぎにスローゾーンへ戻ると、ポールに次々と輪を入れ、Vゴールを達成し(56秒)、長野は敗れてしまった。長野は自陣ポール3本に輪を入れて中央ポールを狙っていたところだったのだが、一旦スタートゾーンに戻ってそれから守備に回っていた。回転させていた大きな輪をもう少し早く、移動しながらでも回し始めて自陣ポールの守備に使っていたら、北九州高専の「Wanna be(ワナビー)」のように防ぐことは出来たかもしれない。

長野高専B infinity(インフィニティ) 画像URL

関東甲信越地区大会 出場校データチェック ページより

上記サイトの都合で画像が閲覧できないことがあります。

特徴

  • 移動システム:四輪メカナムホイール
  • 射出エネルギー源と格納方法1:バネ?(またはゴム?)+二次電池
  • 射出エネルギー源と格納方法2:二次電池
  • 射出装置1:弾性力利用押出カタパルト(自陣)x1
  • 射出装置2:ハンマー投げ型(中央)x1
  • 射出装置3:ハンマー投げ型(相手陣)x1
  • 照準/測位システム:なし(目視)
  • 通信システム:未確認
  • コントローラー:ゲームパッド、PC
  • 操縦者:1名(2名?)
  • 自律機能/自動機能:未確認
  • 妨害装置:なし

射出装置

 自陣ポール用の射出装置は、弾性体とモーター駆動の偏心カムという要素で構成されいる。偏心カムを回転させて射出エネルギーの蓄積し、引き金として機能する。非常にシンプルで確実性の高い装置であったが、採用していたのはinfinityだけだったのではないだろうか?*9

 中央ポール用の射出装置は、大きな輪をハンマー投げのよう投げる。振動を防ぐためだろうが、回転軸を中心に180度の位相で2つの大きな輪をぶら下げていた。回転することで輪を浮上させ、射出に適した回転速度に達したら同一回転時に逐次的に射出される。複数本掛けを狙うことができ、かつ二つ放つことによって無得点の可能性を低減させている。実際、中央ポールへ輪を放った試合で無得点だったことはなかった。

 相手陣ポール用の射出装置は中央ポール用に似ているが、重ねられれた二つの輪が60度の位相で配置されており、1回の射出で、180度の位相位置にある合計4枚の輪が逐次的に飛んでいくように設計されていて、輪の飛翔は、ロボコン大賞の中の大賞であるベスト・オブ・ロボコン大賞を受賞した1994年第7回大会で最高5つの円盤を流星のように連射した奈良高専のスターキングを彷彿させる。*10

 ハンマー投げのように輪をとばしていたロボットは幾つかあったが、その装置を、同一軸上ではあるが、二つも搭載してきたのは長野高専のinfinityだけである。二つ搭載しているが故に、最初に中央ポール、次に相手陣ポールという順序で試合を展開せざるを得ず、戦術の自由度が下がっている。両方同時に回すことも出来たのかもしれないが、エネルギー消費が高くなってしまうのと、振動の問題があるので、割り切ったのかもしれない。また、試合での精度は良くなかったが、連射を可能にしたアイディアはユニークであり、どういう仕組みで輪を離しているのか気になるところである。ユニークといえば、このロボットは、自陣ポール用の射出装置の輪の射出方向と中央ポール用・相手陣用のそれらとが同一方向という、全国的にも稀、ひょっとすると唯一のロボットだったかもしれない。*11さらに言えば、郷土愛というべきなのか、相手陣ポール用の輪は一見すると6輪並べられていて、真田一族の六文銭の家紋から発想したと想像されてしまうかもしれない。そういうことから言えば、総合的なデザインセンスは秀逸である。

 この機体はは、最初に搭載した輪が「理想的に」全て入れば25点となることから*12、発案の段階では大会最高得点かつVゴール勝利を目指していたのではなかろうか?同じ高専のAチームC-RAZairが22点という大会最高得点を記録したが、それを上回るつもりでいたのではないだろうか?

 幾つか気になることがある。やはり、メカナムホイールでは車輪のロック、ブレーキは効かせにくいのだろうか。中央ポールや相手陣ポールを狙っているときの機体は揺れていた。また、その振動対策だったのか、単に工作力を示すものだったのかはわからないが、中央ポール用の大きな輪を射出する装置の円形のフレームが歪んでいるように見えた。重量を増やさずに振動対策を施してみたのだろうか?*13そのように推測したくなるのは、軸と円形のフレームを繋ぐ部品の一対が一直線上にはなく、強いて言えば「八」の字のように配置されているからである。また、相手陣ポール用の射出装置も同様に、「六」の字のように配置されているように見えないこともない。*14

コントローラー

 操縦者の傍らにノートPCを持ったメンバーが常に同伴していたが、カメラから送信されるリアルタイム映像を利用した照準システムとして、または中央ポールと相手陣ポール用の射出装置の回転速度のモニターとして用いていたのだろうか?

成功

 チーム数の差によるトーナメントの高さの違いはあるので比較し難いが、AB両チーム合わせて7勝は四国地区大会で同キャンパス対決をした香川高専詫間キャンパスと同じく最多である。また、両チーム共に全国的にも大変独創的なアイディアを具現化した。そして特にAチームのC-RAZairは高専ロボコン史上でも稀に見る白熱の決勝戦をしたことで多くの観戦者に語り継がれることとなるかもしれない。そうしたことから、長野高専にとってこの大会は大成功に違いない。

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*1:大会開催地が旧航空高専でしたから、活躍されているOBを招待したいですよね。

*2:ロボコンのゲスト審査員に呼ばれることはないんでしょうか?

*3:R32 「スカイラインGT-R」でも開発に関わっていたいたそうで、私の年代ですと所有・運転に憧れた方は多いのではないでしょうか?

*4:GT-Rの1/10の模型はあるんですが、いつか手に入れて日本国中の国際・JAF公認サーキットを走ってみたいです。

*5:今回の記事で扱うロボット名が"infinity"ですが、日産の高級車ブランド名とよく似てますね。意味は同じでしょうが。冒頭にこんな話題を扱ったこととは関係ありません。

*6:事業所は今月から開設されて、無料で見学もできるようです。

*7:どこかにその逸話記事があったような気がします。

*8:私が在学していたところでは寮でそんな事業は到底無理でしたし、また私が最終学年のころにやっと繋がったという時期で、本格的にインターネットに触れたのは大学進学してからでした。IMOSAICでネットサーフィンし、IRCでチャットして時間をちょっと無駄にしてましたね(懐古)。

*9:調べてませんが、おそらくそうではないかと。

*10:失礼でロマンティックではなくなってしまうかもしれませんが、分解しながら落ちてくる隕石のほうがしっくりくると思っています。

*11:調べてないのですが、恐らくそうではないかと。

*12:inifinityのチームは2本掛けを目指していたようです。

*13:減衰要素があるんだろうか?

*14:徹底して6に拘っていたのかもしれない?