高専ロボコンデータベースをつくっていくブログ

高専ロボコン第30回大会を終えてこれからも面白いロボコンであってもらいたいということで最近の高専ロボコンに感動した自分が満足できそうなデータベース構築のために情報を蓄積していくためのブログです。

和歌山高専A 梅王(バイキング)

試合内容

地区大会

 初戦、1回戦第5試合

 恐らく対戦相手が居ない状態で34秒でVゴールが可能という大阪府立大学高専Bチームの「パルフェン」と対戦した。和歌山は序盤の自陣ポールを素早く決めようと自陣ポール3本目を決めようとしていたとき、大阪府大に開始9秒で3本同時に決められ2対3と逆転される。和歌山も直ぐに追いつき、開始12秒で中央ポールと相手陣ポールを取り合う3対3の状況になった。このまま接戦が続くのかと思いきや、大阪府大が相手陣ポールに一つ輪を入れたきり得点できず、中央ポール、相手陣ポールを一つずつ着実に決めた和歌山が48秒であと1本でVゴールという状況を作った。大阪府大は防御用の輪が搭載されていて最後の1本を死守していたが、和歌山はそれをかわす弾道で輪を飛ばし、56秒でVゴール勝利した。

2回戦第3試合

 幸先良い初戦であったが、次の2回戦第3試合は近畿勢悲願の全国優勝が狙えると噂の奈良高専Aチームの「大和」であった。先に全国大会で準優勝されているとはいえ、地区大会を最も多く優勝しており、全国大会の進出回数と連続進出回数も地区最多であり、最近の10年では3回も全国制覇に迫った和歌山だけに負けてはいられなかったが、あっという間に決着がついてしまった。開始13秒で偶々入らなかった相手陣ポール1本を残して8対2とされ、最後は恐らく全国でも最長の輪*1の射出、サンバーストでVゴールを決められて負けてしまっていた。その時間、29秒。それでも和歌山は中央ポールに全て決めて6点獲得していた。

 奈良がミスしたポールを死守できる防御装置があったらどうなっていただろうか?やはり巨大な輪でポールと一緒に囲まれてしまったであろうか?*2。 

全国大会

1回戦第10試合

 香川高専詫間キャンパスの「Force(フォース)」との対戦であった。30年近く続いている高専ロボコンで、対戦することが多く、面白い試合が多かった気もするカードだ*3。この試合もそのうちの一つになった。序盤、自陣ポール全てを11秒で和歌山は奪取に成功するが、14秒で詫間も追いつく。和歌山は相手陣ポールを狙い始めるが詫間は自陣ポールの中央の前で防御を張りながら得点し、4対3の逆転するが、和歌山も数秒もしないうちの追いつく。詫間が中央ポール全てを決めて6点とれば、和歌山は相手陣ポールで加点して6点とって直ぐに追いつく。接戦のまま最後まで縺れると思いきや、邪魔され難い中央ポールを残していた和歌山が中央ポールを三連続で決め、詫間に対して6対9と引き離した上にVゴールまであと1本の状況に追い込んだ。詫間は最後の一本の死守を決め込んでいたようだが、和歌山は詫間の防御を越える輪を何個も連射し、1分15秒で最後の輪をポールに通し、Vゴール勝利した。

2回戦第7試合

 リードされても中央ポールの2本掛けや3本掛けで大量得点で逆転を仕掛ける大分高専のGolgooleとの対戦であった。序盤、大分高専の自陣ポールへの素早い得点でリードされかかるが、和歌山も直ぐに追いつき開始14秒で3対3とし、直ぐに大分の背後にある相手陣ポールを獲得し4対3として逆転した。調子のよさが伺える。その後相手陣ポール・中央ポールと順調に得点を重ねていくが、大分の得意の2本掛けで7対8と逆転される。しかし、和歌山が慌てる必要はなかった、大分は輪の装填にスタートゾーンに戻っている間に悠々と得点を重ね、Vゴールで勝利した。これまでの自己ベストタイムかもしれない51秒でのVゴールであった。

準々決勝第4試合

 ワイルドカードで復活した熊本高専八代キャンパスの「挑戦車(チョウセンシャ)」が試合相手であった。どちらかというとライフルのような狙撃型の八代の挑戦車に対して、和歌山はマシンガンのような連射型という、似て非なるロボットの対戦であった。

 序盤は開始16秒で3対3とスコアだけをみると実力が拮抗していたかように思えるが、和歌山は最初の自陣ポールから輪をポールにうまく収められず、前の試合とは打って変わって調子が悪くなり始めていた。

 両者が中央ポール・相手陣ポールを狙い始めてからは八代が試合をリードしていった。和歌山は輪を連射するが入らない。その和歌山の調子の悪さを尻目に44秒で5対8と八代が圧倒的なリードを築き、和歌山がピンチに陥った。和歌山は防戦するしかなかった。八代は狙撃的な射出から榴弾砲のような高弾道に切り替えたが、和歌山の必死の防御で輪を入れられずにいた。

 流石の八代も搭載していた輪を撃ちつくしてスタート地点に戻って輪を装填していた。和歌山はその隙に追いつこうとするが、輪を撃ち尽くしてしまい、万事休してしまった。防御はしていたが、負けは確定してしまったのだった。試合は結局6対8で八代の挑戦車の勝利に終わった。

和歌山高専A 梅王(バイキング) 画像URL

NHK高専ロボコン ライブストリーミング サイト 近畿地区大会 出場校データチェック ページより

上記サイトの都合で画像が閲覧できないことがあります。

特徴

  • 移動システム:四輪メカナムホイール
  • 射出エネルギー源と格納方法1:2次電池(+輪の送り出し用圧縮空気(ペットボトル))
  • 射出装置1:2軸2モーターの挟み型ローラー(縦挟み)(汎用)x1
  • 照準/測位システム:なし(目視)
  • 通信システム:未確認
  • コントローラー:ゲームパッド
  • 操縦者:1名
  • 自律機能/自動機能:未確認
  • 妨害装置:あり(全国大会から)

装填と押出

 地区大会出場校データチェックのページに簡潔に判りやすく書いてあって好感を持った。他の地区のチームもこのように紹介すると良いと思う。スポンサーのウェブサイトやNHKの番組で全く取り上げて貰えない可能性があるのだから。

 基本的に輪が射出されるまでに二つの装置を通っている。このブログを続けていて気づくべきであったが、こういう構造にも注目すべきである。全国大会1回戦で対戦した香川高専詫間キャンパスは一つの装置で実現していた。戦略・戦術、利用部品が大きく異なるので比較し難いが、直感的に、簡単な確率論で、多くの場合部品が少ないほうが良いのは自明である。

 和歌山の梅王では、恐らく動作がプログラミングされていて、射出指令を手許のコントローラーから出すと、最初の輪は、装填機構のベルトコンベアで移動し、ローラー手前のエアシリンダを利用する押出装置に装填されて直ぐにローラーに押し出され射出し、射出が完了すると直ぐに次の輪を装填するシーケーンスになっているのだろう。もしくは、装填と射出とそれぞれ指令(ボタン)を分けているかもしれない。*4

ローラー

 全国大会直前まで含めると1500回以上の練習をした*5というし、クローズアップされていた操縦系統に目がいきがちだが、射出角度を固定していたにも関わらず、自陣、中央、相手陣のポールを見事に打ち分けていたローラーにも注目すべきである。特に、2つのモーターそれぞれにローター1つを割り当てていて、機械的に結合していない、むしろ意図的に結合させていないところに注目すべきである。また、ローラーの素材自体も他のチームとは異なる素材が使われているかもしれないので、同様に注目すべきである。

回転速度

 試合をみていれば、ローラーの回転数制御を狙うポールや射出位置に合わせて、ローラーの回転速度の制御が行われているのは確かなようだが、何をどこまでやっているかまでは正確にはわからない。回転速度を指定の速度に保つ為に例えばPIまたはPID制御を用いているのかどうかなどである。ひょっとすると、あらゆる意味においてバラツキの少ない高性能なモーターとバッテリーを使い、多くの練習回数と条件で得た偏差を統計処理して性向を掴むことで、制御も何もせずとも命中精度を上げることに成功したのかもしれない。

 全国大会の番組では、操縦系統に磨きをかけているような演出でプログラム(のソースコード)をアップデートしていた。そこで映し出されたソースの一部は、制御文(if文)とローラーに関連していそうな変数が並んでいたので、コントローラーのボタンが押下されたらローラーの速度を設定変更する部分ではないかと推測している。恐らく、PWMのデューティー比のオフセットの変数と微調整用の値を即値で加算してから設定しているのではなかろうか*6

 仮にあの番組で映し出されていたのがデューティー比の設定だとすれば、あの制御文群の下の方が遠くへ輪を飛ばすローラーの回転速度の設定をしているのだろう。その仮定でさらに推測するなら、上下のローラーの回転速度が異なる設定があるかもしれない。数値が異なっている箇所があり、恐らく数値が大きい方が上のローラーで、ポールに輪の後端が先に引っ掛かりやすくするために輪が上反りの飛行形態をとる設定となっているのではないだろうか。やけに輪の飛行形態が安定しているように見えたのは、そういう工夫がされていたからかもしれない。推測に過ぎないので、ご存知の方がいたら教えてください。

・・・

else if(data[2] == 'E'){
roller01_PWM = 134+jE;
roller02_PWM = 166+jE;
}
else if(data[2] == 'F){
roller01_PWM = 143+jF;
roller02_PWM = 175+jF;
}
else if(data[2] == 'G'){
roller01_PWM = 202+jG;
roller02_PWM = 202+jG;
}
else {
roller01_PWM = 249+jH;
roller02_PWM = 249+jH;
}

・・・

上記は『高専ロボコン 2015全国大会「輪投げ対決 目覚めよ!ホースの力」』でクローズアップされていたソースコードの一部をテキスト化してみたものです。Gistのようなサイトで貼り付けようと思いましたが、これで十分ですね。

 同じくローラーを搭載した機体で大活躍した高松高専のBeehiveとは和歌山の梅王は似て非なるものであったという認識をしているのだが、私個人としては、仰角調整用の装置を必要としない梅王もBeehiveと同程度に評価されるべきだと思っている。

素材

 ローラーの素材がわからなかった。摩擦係数が大きそうな、マイナスドライバーを押し当てると凹みそうな柔らかい素材ではないかと推測していた。どこかでその素材名を公開していないかと検索してみたら、デバイスプラスさんの取材記事で「キーデバイス」としてウレタン製であると公開していた:

deviceplus.jp

 ウレタンというと発泡したものを思い浮かべることが多いと思うが、梅王のローラーに使われていたのはウレタン・ゴムの方であった。私は扱ったことの無い素材なので、どういう特性があるのかわからないが、ローラーに全くブレがない、振動していないところをみると、高専ロボコンでは扱いやすい素材なのかもしれない。素材の採用の経緯や加工については梅王のチームの担当者に尋ねないと想像すらできないのでここまでとする*7

妨害装置

 地区大会では搭載されていなかったが、全国大会では搭載されていた。どういう経緯で搭載されたのかはわからないが、地区大会をふり返って搭載されていたらという仮定の下に戦術を見直した結果、搭載することを決断したのではなかろうか。

 重量制限がある中、全国大会1回戦で対戦した香川高専詫間キャンパスよりもシンプル且つ丈夫そうで、高さもあることから、良いデザインであると思うし、全国大会では何度も自陣ポールが対戦相手に獲得されるのを防いだことから、その機能を発揮できたことは言うまでも無い。奈良高専の「大和」とリベンジしたら勝てただろうか?

*1:今回一番大きな・長い輪であったのでしょうか?

*2:私はそれが見たかった X^D 

*3:そんなに対決してただろうか?対決もデータベースがあったらなぁ...。

*4:和歌山のチームの方、教えてください。

*5:全国大会番組でそのように放送されていた。

*6:PWMとかディーティー比について、知らなければとりあえず自分で調べてみましょう。

*7:誰か知っていたらコメントしてください