第30回大会の感想徒然 その1 モノコックボディ
遅い報告になりますが、今回の第30回高専ロボコン全国大会を観戦してきました。今回はデータベースやそこに登録したい情報ではなく、純粋に高専ロボコンについて書きました。大会全体のお話は他所の方のほうが詳しいと思いますので、私が気になったコトだけを記しておきます。
モノコックボディ
今大会でロボコン大賞を受賞された大分高専「マリンビート」のチームのみなさん、おめでとうございます。今回取り上げたいのは大分高専マリンビートが大賞を受賞したことではなく、その機体自体についてなのです。各所で素材については触れられているのですが、注目すべきは素材だけでなくその構造と実戦実績なのです。
素材
マリンビートが機体全体で利用した素材は、プラスチック・ダンボール(通称プラダン、以後プラダンと略す)の一種であるテクセル®*1を使っているそうです。
テクセルは、内部のハニカムコア構造によって、直線的な中空構造で応力に対して異方性がある通常のプラダンより比強度が高く、等方性材料として考えてもよく、なおかつ加工がし易いようです。より詳しい情報は日本国内でライセンス生産している岐阜プラスチック工業株式会社のウェブサイトなどで知ることができます。
構造
私が注目したのはテクセルの内部構造ではなく、マリンビートの機体の構造です。地区大会の映像をみたときは、衝突の衝撃を軽減させるために外装を丁寧に作っているように感じていましたが、全国大会で北九州高専のReVictorとの「再対戦」をこの目でみて、機体の若干の大きさの違い、形、そして動きに違和感を持ちました。追加の装置になしに起き上がれるようにするため、マリンビートのそれぞれの機体をあの大きさに抑えたのだとしても、いとも簡単に素早く復帰できることを不思議に思いました。
ここでマリンビートの機体それぞれについて通常姿勢時の車軸より上の重量が圧倒的に軽く、なおかつ刀や秘密道具の装置がある上部に至るまでに内部に複雑な構造や重量物もなく、載せている秘密道具ですら軽いという仮定をしてみます。つまり、重量物の殆どが通常姿勢時の底面にあるということです。すると、転倒時の重心位置が車軸上方付近になり、少しの加速で通常姿勢に戻りやすいはずです。*2また、今回のルールで規定されている刀とそれを動かす装置や秘密道具などは進行方向に対して左右対称的に取り付けたいところですが、マリンビートはどの機体も秘密道具が片側側面側に寄っていていましたので、衝撃に耐えうるように側面側に寄せたのではないかとするのが自然だと思います。*3*4
仮定どおりなら、ひょっとすると、内部にフレーム構造などもなく、外皮/外殻に剛性強度を持たせて構造材の役目もさせるモノコック構造でもおかしくはないと思いました。また、公開されている試合映像をじっくりと眺めていると、秘密道具を振りかざす装置も、高専ロボコンではよくみられるアルミ材や木製などではなく、本体と同じ素材から成形され、衝撃や応力に耐えうるように太く設計されているように見えました。
そこで思い切って、マリンビートのチーム顧問と思しき方に尋ねてみたところ、モノコック構造であることが分かりました。*5
ピットなどで間近でこの機体を子細に眺めることができた他校の学生であれば直ぐにわかるかもしれませんが、一般の観戦席からでは、こういうことは非常に分かり難いです。
因みに、これまでの一般的な素材よりも軽く、速く、安く制作することができたそうです。また、リブ構造を組み入れて補強しているのだそうです。
テクセルで岐阜プラスチックさんのHPを見ると詳細は載ってます.強度に関しては十分だったですね.ちなみに重量やコストは従来の2割減で部品加工速度は10倍,組み立ては3倍,設計は2倍速くなりました.
— VVR(迷走神経反射)@ロボコンの振替休暇消化中 (@mejirobo) 2017年11月28日
実績
- 地区大会
- 1回戦第2試合 鹿児島B 武人合体ダイシマズ
- 相手本陣10個を0:33で割り、無慈悲に完封勝利。
- 2回戦第6試合 熊本八代A 火の国
- 3個割られたものの相手本陣10個を1:36で割り、勝利。激しいあたりがあった。
- 準々決勝第2試合 沖縄A O・R/Predators
- 相手本陣10個を0:14で割り、大会最速で*7完封勝利。
- 準決勝第1試合 都城A 割れ!風船PANだ!
- 相手本陣10個を0:53で割り、完封勝利。激しいあたりあった。
- 決勝戦 北九州A ReVictor
- 二台とも相手本陣前の効率的な位置に駆け付けることができ、リードされていたが逆転して0:24で地区大会優勝。激しいあたりがあり、自陣の風船は残り2個だった。
- 1回戦第2試合 鹿児島B 武人合体ダイシマズ
- 全国大会
- 1回戦第12試合 鈴鹿 Lucy
- 相手陣10個を0:16で割り、勝利。
- 2回戦第7試合 北九州 ReVictor
- リードしていたものの、片方の僚機の風船が全て割れて停止させられ、一機で健闘するも0:41で自陣の風船が全て割られて惜敗、リベンジされる。相手陣の風船はあと1個だった。激しいあたりがあった。
- 1回戦第12試合 鈴鹿 Lucy
7戦6勝。このうち半数以上が激しいあたりがありましたが、壊れない工夫が随所に施され、機体の破損などは確認できませんでした。
展望
素材の安さ、制作の速さ、機体の軽さと三拍子そろった上に、衝突当たり前の珍しいルールの大会で素晴らしい実戦成績を残したことから、自身の自信を深めたと同時に、これから他校への影響は十分あると思います。*8一日の長を活かしたロボットを次回以降登場することを期待してしまいます。
ある程度の衝撃には耐えること、関節を持った構造物を簡単に作れそうなことから、少々の精度や強度の不足を気にすることなく、これまでの高専ロボコンに出場した機体よりも1または2自由度多い関節や軸を持つロボットを独自の制御システムでコントロールして、奇想天外、驚嘆の声をあげてしまうようなロボットが大会に登場することをファンとして願っています。
「塗り替え伝説」から「先駆者」へ
英語にすると、「塗り替え伝説」は”legendary repaint”、そして「先駆者」は”trailblazer”でしょうか。
塗り替え伝説スプレもん
大分高専といえば、私の場合、高専ロボコン史上最も有名な機体という称号が相応しい「スプレもん」を思い出します。高専ロボコンが好きな大半の方もそうではないかと思います。高専ロボコン好きの方々は、奇想天外なアイディアでルールを塗り替えたことに少しの憧れと敬意をもって、そして、初期の高専ロボコンから参加していた学校の中で地区大会が始まってからの全国大会初進出が最も遅かった不名誉な記録を持つ大分高専への揶揄いを隠しながら、「スプレもんの呪い」という言葉も思い出します。詳しくはニコニコ大百科に譲りますが、箱とルールを塗り替えた伝説は、このままでは、未来永劫語り継がれていくのかもしれません。
因みに、上記ニコニコ大百科の記事を最初に載せたのは大分高専の関係者の方だったようです。
けっこう後から追記して下さってる方が居るので今は放置していますが、
— かも🦆 (@musenbu1010) 2017年12月11日
最初に作ったのは自分です。
足掛け10年
一時期低迷していたところが、長い時間をかけ、優勝するための体制を作り、技術を蓄積し、そして後輩に伝承し続けてきたことによって、最近目立った活躍をし始めているように感じます。一昨年に近畿地区初の全国制覇を成し遂げた奈良高専、そして昨年優勝した香川高専高松キャンパスなど*9がそうでしょうし、そして大分高専もその一つでしょう。
2005年第18回大会の「高床式ぱっちん号」あたりから変化がみられ、2013年第26回大会の「跳べ!ライオン君」という傑作機も登場した後に、2015年第28回あたりから頂点を目指し始めたのは衆目一致するのではないでしょうか。
今年の大分高専、色々な話を聞くにつれて
— かも🦆 (@musenbu1010) 2017年12月6日
最高のタイミングで最高の栄誉を勝ち取った感ある
もはや創作かなってレベルで
確かな情報はないのですが、顧問の方の熱心な指導、OBや親族のサポートが感じられます。
先駆者マリンビート
昨年の全国大会決勝戦で頂点に手を掛けたものの、残念ながら再試合で砦から落ちて準優勝となった大分高専。また同じところに登るのであれば、これまでの集大成で挑戦するのが自然な流れですが、大分高専はその流れを断ち切って、高専ロボコン史上で類が無かった機体のモノコック化*10に挑戦し、試合と同様に攻めに攻めたと言えると思います。
アイディア対決ロボットコンテストだけに、数々のアイディアが称賛されてきましたが、見て分かり易いアイディアが多かったように思います。他の分野や産業では昔からモノコック構造のものが作られ利用されてきましたが、今回の高専ロボコンに持ち込み、独自の工夫を施し、実績を残した彼等の発想力はこれまでのアイディア以上に称賛されるものです。
この先駆的な試みは大きく波及していくことでしょう。スプレもんという伝説をマリンビートのモノコックボディ内部に封印し、新たな高専ロボコンの境地を開いたのかもしれません。これから、スプレもんよりも先にモノコックの大分と思い出される日がくるかもしれません。