全OBは自主的に集合できるか? その1
ROBOBON30の一環で、高専ロボコンの番組制作スタッフの方々が、facebookを利用して高専ロボコンOB/OG募集を10月から始めた*1。最終的にどのようなことが行われていくのか楽しみにしているが、出来るだけたくさんのOB/OGが集まって盛り上がれることを願うばかりである。
私は既にfacebookでOB/OGとして認証され、一人の協力者として参加しているつもりである。後学のためもあるが、ここで幾つかの人の繋がりに関する知識の整理と考察をして、微塵でも一助となればと思う。扱う内容は18世紀にオイラーが考案したグラフ理論から始まり最近20年程で大きく進歩した複雑ネットワークである。誤りがあればその分野に詳しい方に指摘を受けたい。また、こういった分野に精通している諸氏は「高専ロボコンOBの場合」まで読み進めて構わない。
六次の隔たり
SNSを利用したのはなるべく多くのOBにリーチしたいからに他ならず、多くの関係を持つOBが最初に加入すれば十把一絡げに同じ学校のOBが加入するとか、もしくは加入した報告を見てOBが加入するという一連の繰り返しが行わるといったことを期待してのことだろう。
唐突だが、まずは、最近よく知られるようになった興味深い知識から。凡そのことはWikipediaに簡潔に纏められているので読んでほしい。
私が初めて知った時は、エルデシュ数とかケビン・ベーコン指数を最初のキーワードとして説明が始まっていたものだが、当時から他の表現もされていた。要するに途中の5人を介して6回辿れば世界中の誰にでも繋がるという仮説である。意外に世間は狭いということで、スモール・ワールド現象の一つとされている。時々行われる実験でこの仮説を実証するような非常に良い結果が得られており、インターネット網が世界中を覆い、情報端末の小型化や低価格化で入手や持ち歩きが容易になり、SNSなどのサービスが普及し、そして薄く広い交友関係を求める傾向も強い現代では、その隔たりは小さくなって、タイニー・ワールドになりつつある(と思っている)。特にFacebookではユーザーは平均3.5人を介せば誰とでも繋がるそうだ。
複雑ネットワークの性質
複雑なネットワークには様々なモデルが想定され、シミュレーションや実際のネットワークの解析などで利用されてきた。BAモデル(Barabási‐Albertモデル)やWSモデル(Watts‐Strogatzモデル)などの(数学)モデルが考案されてきたが、次に示す三つの性質をなるべく満たす汎用性の高い様々なモデルが考案され続けている。先に紹介したの六次の隔たりを含め、これらの性質は実際の複雑なネットワークを特徴づけるのにも利用される。この三つの性質以外にも、同類選択性、中心性などがあるが、ネットワーク全体の特徴を凡そつかむにはこの三つでよいだろう*2。いや、同類性選択も加えるべきだろう。
- スケールフリー性
- スモールワールド性
- クラスター性
どのモデルでも実在のネットワークの解析でも、例えばヒトとヒトの関係の場合であっても、ヒトを一つの点にみたて、頂点(ネットワークではノード)として扱い、また同様にヒトとヒトの繋がりを線にみたて、辺(ネットワークではリンク)として扱うことによって抽象化することで、ネットワーク全体を一つのグラフとして扱う。ノードに集まるリンクの数を次数と呼び、ネットワークの特徴を測る指標の一つになっている。
スケールフリー性
世の中の様々な関係をみると、小数のものが多数の関係を持つのに対し、大多数はそうではないことが多々ある。
スケールフリー性とは、少数の次数の高い頂点(ハブ)と大多数の次数の低い頂点から構成されるグラフの構造を特徴づける性質の一つで、多くは次数の確率分布が次数のべき乗の逆数に比例( 確率分布、次数、定数)で近似できることから次数分布のべき乗則とも呼ばれる。次数分布の平均が意味をなさず、分散も発散傾向を示し、グラフを部分的に取り出してみても、そうした特徴が自己相似的にあることから尺度(スケール)に意味がないという意味でスケールフリー(性)とされた。
現実世界の身近なところでは空路ネットワークなどによくみられる。また、一部にこうした特徴がみられない場合はスケールリッチ(性)と呼ぶことがあり、多くの場合厳密にいえばスケールリッチと言った方が差支えがないことが多いだろう。
スモールワールド性
どんなに複雑な関係性が構築されていても意外と短い距離、時間、または手間で目的に辿り着いたり、達成することがある。
スモールワールド性とは、グラフを構成している圧倒的多数の頂点数と比較すれば高々小数の頂点を介すだけで、任意の頂点と頂点とが接続されているという性質である。
数学的には任意の頂点間の最短距離(最小リンク数)の平均値が頂点の数が増えても高々程度にしか増えないことをいう。
現実世界では六次の隔たりといった世間の狭さでその性質を実感できる。
クラスター性
何等かの理由で関係が多重に密集している部分があるモノ・コトを目にしたり実感したりすることはよくあるだろう。友達の友達も友達であることは多い*3。
クラスター性とは、ある頂点と隣り合う頂点同士がまた隣り合あっていることによって三角形(クラスター)をなすのを基本とした三角形(クラスター)構造の集まり具合、それらの凝集性のことである。
数学的には、ある一つの頂点とその頂点と辺で繋がった二つ頂点を選択して作ることが可能な全ての三角形(クラスター)の数に対する、その一つの頂点から実際に辺が伸びて形成している三角形(クラスター)の数の割合を、全頂点について求め、平均した値をクラスター係数と呼び、グラフ全体のクラスター性を表す。その値が低ければ、クラスタ性が低く、ゼロであればクラスタが一つもない。高ければクラスタ性が高く、1であれば全頂点が自身以外の全頂点と繋がっている。クラスター値の測り方や計算方法は目的に応じて多種多様に存在するが、全体のクラスター性を知るにはこれで十分である。
はある一つの頂点と辺で繋がっている頂点の数。
スモールワールド性を持つネットワークにはクラスター性が高い傾向がある。幾つも頂点を介さなければならない距離が遠い頂点同士でも、それらの頂点自身か近傍に辺が足されるだけで距離が縮むだけでなく、全体の平均距離も劇的に縮むという構造がある。
同類選択性(次数相関性)
簡単に説明することに留めるが、次数の多い頂点同士が繋がっていると正の相関があるとし、次数の多い頂点に次数の低い頂点が多数繋がっていると負の相関があるとする。数学的には、ある頂点と繋がっている頂点の次数の平均と、ある次数を持つ頂点全ての隣接平均次数との相関をみる。実際のネットワークでは、幾つかの集団(クラスター)同士が緩く繋がっていると正の相関があり、航空路線ネットワークであると負の相関がある。
高専ロボコンOBの場合
参加OBの人数
Wikipediaの「高専ロボコンの変遷」に掲載されている参加チーム数が正しいと仮定すると、第28回大会までの参加延べチーム数は3314(チーム)、第1回大会も3人1組で出場していたと仮定すれば参加延べ人数はその3倍の9942(人)となる。延べ人数ではなく、絶対人数を考えると、何回も選手として出場し続けた学生もいたし、選手以外の学生も参加しているチームが大半であろう。ここではフェルミ推定よろしく、凡その傾向や性質がわかればよいだろうから、10万人はいないが、数万人規模の高専ロボコン経験者OB達がいるとしてよいだろう。実際は1.5万人程度ではないかと推測している。
現状のネットワーク構造
例えばFacebookの情報をMathematicaなどを使って簡単な分析にかけてみるといったことさえしていないし、ROBOCON30の参加メンバーを眺めて想像しただけなのであるので、大きく外れている可能性は否定できないが、次の図ような感じになっていると想像している。
上の図では学校(キャンパス)別に色分けしているつもりである。またネットワークのリンクは面識がある程度ではなく、確実に連絡がつき、コミュニケーションが容易にとれる間柄であるとしている。
「若いOB」というのは比較的最近のSNSやスマフォが普及しだしてからOBになった世代で、高いクラスター性を持っていると思われる。現役時代からの交流会などを経て他校との交流も盛んであり、学年を超えての親密度も高いと思われる。
「2000年前後のOB」というのは、ともすれば「オールドロボコンOB」と一緒にされるかもしれないが、現役当時に有志が本格的に交流を始めた世代のOBである。交流ロボコン程多くの学校のチームが参加していたわけではなかったようだが、横のつながりは強かったようだ。現在もそうであるか、その後の世代に引き継がれているかは明確ではない*4。また、参加していなかったOBはオールドロボコンOBとしてもよいだろう。
「オールドロボコンOB」というのは20世紀中に参加してたいた世代で、他校との交流は殆どない世代である。また、母校を離れて久しく、どの高専ロボコンのコミュニティとも縁遠いOBが大半である。
ネットワークの全体ではスケールフリー性というよりもスケールリッチ性があるといったほうがよいだろう。「若いOB」と「オールドロボコンOB」とでは次数分布が欠落しているというよりも断絶していることもあるだろうから。また、その二つは次数相関が全く逆の性質を持っていると言ってよい。「若いOB」は他校を跨いでも高い正の相関があるだろうが、「オールドロボコンOB」は負であることが大半なのではないだろうか。
さて、一番重要なのが、スモールワールド性なのだが「若いOB」と「オールドロボコンOB」とではその次数が倍近く異なるのではないだろうかと思う。
自発的参加の現状
FaceboookのROBOCON30のメンバー参加状況をみると、概算したOB絶対人数の1%程度しか参加していない。当時のメンバーの誰か一人でも参加しているならよいとしても5%程度である。また、参加メンバーを眺めると、最近卒業した学生、研究者または教育者になっている方が多い印象を受ける。メーカー勤務のOBや起業したOB、異業種で活躍しているOB*5はごく少数である。
2007年の20周年記念大会の時もOBのメッセージを集めていたが、その時にメッセージを寄せたOBの方々のうち、FacebookのROBOCON30のメンバーになったのは数人しかいない。因みに、先日の全国大会*6で高専ロボコン事務局サイトがリニューアルされるまで公開していた20年記念大会時のOBからのメッセージはThe Internet Archive(次のリンク先)で閲覧することができる。
20周年記念大会時に寄せられた「ロボコン卒業生からのメッセージ」
個人的にある調査をするためにロボット名は結構有名であろう某準優勝チームのメンバーの方を偶々Facebook上で見かけたので質問をしたことがある。その方は現在ROBOCON30のメンバーとはなっていない。
先日の全国大会ではOBに関する企画発表がされなかったのは仕方のないことだと思っている。傍からみていて集まりが悪いと思っている。事務局側はスモールワールド性があるものとして6人介せば数珠つなぎにOBが集まるものだと期待していた節があるが、メンバーの増え方を見ていると最初の関心の高いOBが集まるのを除けば、地区大会や全国大会のライブストリーミングでのアナウンスでぼちぼち集まっているような印象を受ける。これから深夜で地区大会、月末には全国大会の放送があるので、同様にアナウンスしておけば増加は見込めるだろうが、大きな増加はないのではないだろうか。
期待していること
沢山のOBを集めて一体何をするつもりなのか見えてこないが、恐らくOBがある程度集まってからでないと企画も考えられないのではないかと思っている。集めても結局何もしないことも考えられるが、幾つか期待していることがある。
- 伝説のロボコンOBにインタビュー
- 伝説の対戦をOB達が再検証
- OB達による投票企画
伝説のロボコンOBは既に各所に登場しているが、私がインタビューしてほしい伝説のロボコンOBは「スプレもん」を製作した方々で、企画されることを期待している。
まとまっているようで、まとまっていないが、今日のところここまで。
参考
下に挙げた他にも公開されている資料があるので参考にされたい。
- 作者: ダンカンワッツ,Duncan J. Watts,栗原聡,福田健介,佐藤進也
- 出版社/メーカー: 東京電機大学出版局
- 発売日: 2006/01
- メディア: 単行本
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