東京高専B ゜ゑ(ピェ)
試合内容
1回戦第4試合に都立産技高専荒川キャンパスAチームの「荒鯊(アラハゼ)」と対戦したが、籤運が悪過ぎた。初戦で優勝候補にして一瞬で試合を決することができるチームと対戦してしまったのであった。
強豪相手でも東京高専の「゜ゑ」のメンバーは諦めてはいなかった。それが証拠に、試合開始早々、荒川の荒鯊に向けて輪の射出を邪魔する目的で輪を打ち込んでいたからだ。しかし、荒川の速さの前には無力であった。開始12秒でVゴール勝ちされてしまったのだ。あとは残りの時間で性能をアピールする他なかった。開始49秒で自陣ポール3本を決め、1分14秒で中央3本を決めた。かなりの輪を外したため一旦スタートゾーンで輪を補充してから2分過ぎに再びスローゾーンへ飛び出していき、相手陣ポールを狙う。相手陣の左、中と決めていき、最後試合時間終了近くの2分53秒で相手陣ポール右に輪をいれてVゴールをしてみせた。
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特徴
- 移動システム:四輪オムニホイール
- 射出エネルギー源と格納方法1:二次電池
- 射出装置1:4軸4モーターベルトコンベア型(汎用)x1
- 照準/測位システム:測域センサー(LRF)+ロータリーエンコーダー+ジャイロセンサーで自己位置推定と照準動作を自動で行う
- 通信システム:未確認
- コントローラー:ゲームパッド
- 操縦者:1名
- 自律機能/自動機能:照準/測位システム参照
- 妨害装置:なし
射出装置
幅の細いベルトコンベア型の装置を輪の内径程度の円周上に4つ配置し、輪をその4つの装置に送って、ベルトコンベアが輪を運ぶ速さで輪を飛ばすという、ユニークな機構である。輪の自動装填も詰まることがなく、また連射が可能であったこと、そしてこれは想像の域を出ないが、輪を折ることがないので、室温の違いに対応しやすかったかもしれず、秀逸な射出装置の一つに数えたい。
精度は試合映像の通りである。*1一つのベルトコンベア型装置に一つのモーターを割り当てており、それが四つもあった。それぞれの回転部分が機械的に結合しているようには見えないので、回転速度の同期または調整はどのようにおこなっていたのだろうか?また、仰角が調整可能であるので、射出速度は一定なのかもしれない。
フレームの構造に一工夫されているように見える。射出装置の突端、ベルトコンベアの末端の辺りから、それぞれの装置を結ぶフレームが根元の方よりも微動・変形しやすくなっているように見える。輪が加速したときにその速度を落とさないように、装置が若干縮み、輪が抜けやすくなっているのではないだろうか?
測位・照準システムと自動機能
これまで紹介してきたロボットの中で、優れた照準システムを搭載していたロボットを一つだけ挙げるとすれば、画像処理の熊本八代の「挑戦車(チャレンジャー)」を挙げたいし、東西で分けるとすれば、照準システムとしては西の横綱として担ぎたい。それに対抗できる(かもしれない)東の一機はどれかと言われれば、候補は幾つかあるが、Vゴールなどの結果から、東京高専の「゜ゑ」を挙げたい。こちらは、レーザーを使った測域センサー(LRF)でポール位置の検出、ロータリーエンコーダーで移動距離(と速度)を測り、ジャイロセンサーでロボットの向きを検知していると推測する。*2何かの機会があれば、射出システムを磨いた上で、熊本八代の「挑戦車(チャレンジャー)」と対戦して欲しかった。
デザイン
シンプル・アンド・シンメトリーが私が好きなロボット・タイプの一つであるが、この「゜ゑ」はそれに当てはまるだけでなく、高専ロボコンでは高度な制御装置同士が配線で絡み合っているように見えるかもしれない内部をすっきりとした下部の外装で覆い隠してあり、さらに相手からの走行・調整妨害の機能を兼ねており、それに対して上部の射出装置を剥き出しにしてあるのが設計者のセンスの良さを感じとれる。
その上部にあるマガジン(輪倉)はカートリッジ式で取替えられるようになっている。上記で熊本八代の「挑戦車(チャレンジャー)」を挙げたのは、地区大会では無かったマガジン(輪倉)を全国大会では用意していて、「゜ゑ」などを参考にした可能性があるからだ。カートリッジ式のマガジンを採用していたチームは幾つかあったが、円筒形のは「゜ゑ」だけではなかっただろうか*3。意外に重量が嵩むと推測するし、ルールを熟読していないのだが、ロボットの分離と見做されないことが明確に分かったであろうし、作らせる判断をさせた可能性はある。
ロボット名は恐らくあとから名づけたのであろうが、象形文字から派生したとはいえ表音文字の歴史的仮名遣の文字を象形文字のよう使って名付けるのが非常にユニークであり、こんな名前の付け方は初めてではないだろうか?確かに輪を飛ばしているように見える。成績は振るわなかったが、機構の細部からネーミング・センスに至るまで良いセンスが迸っているので、トータル・デザイン賞があれば授与されるべきだろう。
次世代機のプロトタイプとして
まことに勝手な提案ではあるが、輪が入る精度が「ヒトが介在すると」若干落ちるということを逆手にとるというか、比較対象にし易いというべきか、「゜ゑ」と同じものを製作して2台にし、AI技術も取り入れた完全自律型の次世代機の実験機としてその2台で試合をして改良していくという活用をしたらどうか。大きさで困るのならば、北米などでの披露のために大会後にダウンサイジング版を開発していたチームを参考に、縮小したものでも良いだろう。*4